法律では、生まれてきた子どもの父親は「その当時結婚していた相手」になる(嫡出推定。離婚をしているともう少しややこしくなる)。そのため、どう考えても自分が父親ではない場合でも、結婚している妻が生んだ子どもであれば自分が父になってしまう。否認したいときには、2種類の方法がある。
【子どもが生まれたのを知ってから1年以内】
家庭裁判所に申し立てをし、それが正当であれば否認される(嫡出否認)。
【子どもが生まれたのを知ってから1年以上】
通常は、父子関係を否認することはできない。ただし、例外として、「親子関係不存在確認の訴え」が認められれば、父子関係を否認できるケースもある。親子関係不存在確認の訴えが認められるのは、「妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合」。たとえば、長期の海外出張や受刑、別居等で離れていると、この訴えが認められることがある。
本で紹介されていたケースでは、このどちらを用いても父子関係を否定することができそうだ。では、今回問題になった北海道の訴訟ではどうだったのだろう。
近年、親子関係不存在確認の訴えの根拠として、「DNA鑑定」が持ち出されることが増えてきた。確かに、「生物学的血縁関係がない」という結果は、客観的で説得力があるように見える。北海道の訴訟でも、妻側はDNA鑑定を根拠にして親子関係不存在確認の訴えをしていた。
一審・二審では、妻側の勝訴。DNA鑑定を根拠に、父子関係が存在していないと認められた。それが覆されたのが最高裁。DNA鑑定は親子関係不存在確認の根拠にはならないという結論が出たのである。なぜ、このような結論になったのか。
当たり前のことだが、法律ができたときにDNA鑑定なんてものは存在していないし、想定されてもいない。もし、最高裁で「親子関係不存在確認の訴えにおいて、DNA鑑定を根拠にしてもよい」という判例ができてしまうと、さまざまな問題が起きることが考えられる。個々の例外的なケースを考えるのではなく、法全体のことを考えたからこそ、今回の判決は出されたのだ。