結局のところ、芸能人無断撮影の事案は、複数の権利がぶつかりあう場面であると言うことができる。個人の人格権は保護されるべき権利である一方、「報道の自由」も憲法により保障されている権利である。だから筆者としては、この議論の盛り上がりのなかで、なんとなく「無断撮影はすべて自重すべきだ」という意見に世論が傾くことは、結果的に公共の利益を損なう可能性を秘めているという意味において、必ずしも歓迎すべきことではないと思うのである。読者諸賢はいかに考えるだろうか。
最後に芳永弁護士に聞いた、芸能人の撮影にあたって留意すべき点をリスト化しておこう。被撮影者が芸能人の場合、現在の基準で「社会生活上受忍の限度を超える」と見なされ違法とされる可能性があるものとして、次のような場合が考えられる。
・悪意を持ってことさら相手を貶めるような写真の撮影・公開。
・芸能人でない家族や子どもの容ぼうの撮影・公開。
・私宅、病院、個室等、プライバシーが保護されるべき場所での写真の撮影・公開。
・法令に違反するケース。たとえば、法廷での写真撮影は裁判所の許可が必要だが、無許可で被告人の写真を撮影・公開したような場合。なお、タレントがいるからといって、わざわざ写真を撮るために列車やお店の中に入っていくというような、本来そのスペースが目的にしていること以外の目的による立ち入り行為は、その空間を支配している人の承諾に反するから、場合によっては住居侵入罪になりうるので注意が必要。
・軽犯罪法は、「他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者」を処罰すると規定している。そのような執拗な態様での写真の撮影。
このように悪質性が高い場合や、その他法令に違反する場合は、違法と判断されることが考えられる。ただし、モラルやマナーに反するケースがすべて不法行為と見なされるわけではない。とりわけ、「犯罪」に問われる可能性があるのは、刑事処罰を定めた法規に違反した場合に限られ、パブリシティ権の侵害や肖像権侵害それ自体が、犯罪にあたるわけではないのだ。
(HK・吉岡命)
最終更新:2014.07.23 11:24