こうした性格は、ピッチにいるときはもっとエスカレートする。とにかく自分にボールを集める事を要求し、若い選手たちがパスを回さないと怒鳴りつける。メッシにパスを出せる状況では、「ダビド・ビージャですら自らシュートを打つことが許されなかった」。
それでも結果を出し続けることで、メッシのチーム内での影響力はどんどん強大になり、選手の獲得や移籍といった、チーム編成の根幹にかかわる部分にまで影響するようになっていったという。
たとえば09年にズラタン・イブラヒモヴィッチがチームに加入した際、メッシは「(自分を)センターフォワードで起用しないのなら試合に出ない」とグアルディオラに詰め寄り、結局、イブラはわずか1シーズンでチームを去るハメになっている。バルサではメッシと相性の悪い選手は、どれだけ優秀であろうと放出されてしまうのだ。
また、ブラジル代表の10番でもあるネイマールを獲得した際にも、バルサ幹部はメッシの取り巻きを通じて「ネイマールと契約したらメッシはどう思うだろうか」というお伺いを立てていたことも明かされている。このとき、メッシはプレステでネイマールとサッカーゲームをしたことがあったという理由で「良いよ。彼と契約しなよ」と“お墨つき”を 与えたという。ここまでくると、「コドモ」というより「王様」だが、その人並みはずれたプレーで勝利をもたらしてくれるメッシをだれも切る事ができないし、機嫌をそこねないように厚遇していくしかない。
この本では、グアルディオラが監督として好成績をあげながら辞任したことについても、メッシの扱いに疲れ果てたことが一因になっているのではないか、と示唆している。グアルディオラはバルサを離れる際に選手に対して、「(このまま監督を続けたら)互いに傷つけあうことになる」と語ったというが、これはメッシのことをさしていたともいわれている。
一選手が、チームにこれほどの影響力を持つことはめったにないが、それだけメッシのプレーが突出していることの証明だろう。ただし、メッシの存在はチームにとっては諸刃の剣でもある。バルサでのグアルディオラはメッシを生かすためのチーム作りを最優先した結果、監督どころかチームメイトまでもが、良くも悪くも一種の「メッシ依存症」にかかってしまった。
そして、同様の問題は今大会のアルゼンチン代表にも指摘されている。メッシの1ゲームの総ランニング距離はチーム内で最も短く、守備もほとんどしない。その穴を埋めるためにチームメイトたちが汗をかきまくるという、前近代的なチームが今大会のアルゼンチンだ。それでも決めるときに決めれば文句はないが、徹底マークされた準決勝のオランダ戦のように試合から消えてしまうこともしばしばで、そうなると組織としてはもうお手上げとなってしまう。
果たして決勝でのメッシは、アルゼンチンにとって「天使」になるのか「悪魔」になるのか。そのプレーに注目したい。
(兼松 ひろし)
最終更新:2014.07.11 07:14