フジテレビHPより
“フジサンケイグループのドン”日枝久氏の取締役相談役の退任が予想より早く3月27日に発表された。これは明らかに、第三者委員会の調査報告公表前に、一切の責任を取らずに逃げ切ろうという作戦だろう。
しかも、呆れたのが、日枝氏がこの期に及んでなお、会見はおろか、コメントさえ出さず、フジテレビもその無責任対応を許していることだ。今回の人事発表にともなう会見でも、フジ・メディア・ホールディングスの金光修社長が日枝氏の退任理由について問われても「別に聞いていません」と言うのみ。責任問題には一切言及せず、中居正広の性加害問題やフジテレビの性上納問題と関係がない、というスタンスをつらぬいた。
本当にこんな無責任な遁走を許していいのか。改めて指摘するまでもないが、いま、フジテレビに起きている問題は、日枝氏と無関係どころか、その歪な独裁支配が生み出したものにほかならない。
この間、「週刊文春」をはじめ様々なメディアで報じられているように、日枝氏は、社長、会長時代はもちろん、取締役相談役に退いてからもずっと、人事権を完全独占。「俺が知らない奴は局長にしない」が口癖で、能力や人望と関係なく、自分のお気に入りの人間だけを重用してきた。そして、自分がかわいがっている幹部やそのラインに乗ったプロデューサーなどがパワハラやセクハラなどの不祥事事件を起こしても、トラブルを揉み消したり、処分らしい処分をせずに済ませてきた。
その典型が『プライムニュース』のメインキャスターをつとめてきた反町理氏の人事だ。日枝氏と同じ早稲田出身の反町氏は永田町情報ご注進することで日枝氏に気に入られ、政治部長、編集委員兼解説委員と出世街道を駆け上がっていたが、2018年に「週刊文春」で部下に対するパワハラ疑惑を報道されてしまう。ところが、フジ側は「事実誤認に基づく内容が多い」と完全否定し、報道局の全体会議で謝罪だけで番組で本人の説明もなくキャスターを続投させた。そして、2021年には、日枝氏のツルの一声で取締役に抜擢している。
フジはセクハラを報道された制作幹部も事実上のお咎めなしですませている。この幹部とは、当時、『FNS歌謡祭』の制作トップだった夏野亮・第二制作センター室長。夏野室長をめぐっては、『FNSうたの夏まつり』の打ち上げの宴席で、レコード会社の女性社員2人の胸や陰部を触って、2人が所属するレコード会社2社からフジテレビが抗議を受けたことを「週刊文春」が報道。続いて「アサヒ芸能」も、フジテレビ前で開催された音楽フェス会場のVIP席で女性アナウンサーにキスをしていたことを暴露した。
ところが、フジテレビは夏野室長にたいした処分をしないまま事態をおさめてしまった。この大甘対応は、夏野室長が、当時、フジの番組でコメンテータも務めていた夏野剛氏(現KADOKAWA代表取締役)の実の弟で、中谷元防衛相の妹が妻ということもあり、日枝氏のラインにのっていたことが大きかったといわれている。
ようするに、日枝氏と関係が近くラインにのってさえいれば、パワハラやセクハラをしても許される。そういう歪な人事が、日枝派の幹部を増長させ、今回問題になった性上納などの問題を生み出してしまったのである。