劇中で横浜流星が演じる大学生のように、ニュースに関心がない、あるいは御用メディアの報道にしか触れてこなかった視聴者にとっては、Netflix版『新聞記者』は「こんなことあるわけがない」「現実離れしたフィクション」に思えるかもしれない。しかし、綾野剛演じる総理夫人付き秘書が国有地売却をめぐって働きかけをおこなったことも、逮捕状がもみ消されるほど政権に近い人物がテレビに登場しては政権の擁護を繰り返していたことも、たしかな事実なのだ。
なによりも、吉岡秀隆が演じる鈴木和也が、強大な権力による公文書改ざんの強要に対し、はっきりと異を唱えて抵抗したこと、それでも良心を踏みにじる行為を強いられ、追い詰められ死にいたるという痛ましい流れは、この国に起こった紛れのない事実であり、さらには死にまで追い詰めた公文書改ざんの真相は、いまだに明らかになっていない。いや、ドラマ以上に現実は下劣で、赤木俊夫の妻・雅子さんが起こした国家賠償請求訴訟では、国側がいきなり認諾し、1億700万円の賠償金を支払うことで裁判での真相究明を強引に幕引きするという、国民の税金である札束で赤木さんの頬を張る行為を平然とおこなったばかりだ。
しかし、このような腐敗しきった事実を、この国のメディアは徹底的に追及しようとはせず、それどころか風化させようとさえしている。そんななか、こうした事実を真正面から取り上げてエンタテインメントに昇華させたNetflix版『新聞記者』が果たす役割は、あまりに大きいものだ。
実際、本作はNetflixで世界に配信されているが、英・ガーディアン紙は〈この日本のドラマの政府は私たちの政府よりも腐敗していますか?〉というタイトルでレビューを掲載。5つ星中3つ星をつけて、このように評している。
〈ドラマ後半は、日本が国民の無関心によって不正の沼に陥っている国だと明確に示している。より良い政治を求めるなら、一人ひとりが個人として声を上げなければならない、このドラマはそう言っている。『新聞記者』はナイーブでセンチメンタルなところもあるかもしれないが、この点については間違っていない。〉
あなたはこの不正に無関心でいられるか──。あらためて視聴者にそう突きつけるNetflix版『新聞記者』。自民党政権が維持され、メディアも事件を風化させていっているという現実は悲惨極まりないが、そんななかにあっても、日本を代表する俳優たちが結集し、このような作品がいま生まれたことの奇跡を、ぜひひとりでも多くの人に体験してほしいと願うばかりだ。
(編集部)
最終更新:2022.01.23 07:01