とりわけ、こうした菅首相の支離滅裂な姿勢が表れていたのは、人流を抑える目的でおこなわれた鉄道会社への減便要請だろう。要請を受けて連休中の平日だった4月30日にJR東日本や首都圏の私鉄などで朝の通勤時間帯で減便が実施されたが、その結果、大混雑が発生。ネット上でも「ホームに人が溢れかえっている」「減便のせいで満員電車で通勤」などという声があがったが、4月23日付の読売新聞によると、このトチ狂った減便要請は〈内閣官房主導で、鉄道業界を所管する国土交通省との事前調整なしに進められた〉もの。国交省幹部も「連絡は何も来ていない。新型コロナウイルス感染症対策推進室(内閣官房)が頭越しに働きかけたようだ」とコメントしていた。つまり、官邸主導だったのだ。
菅首相の滅茶苦茶な対策はこれだけではない。インドで見つかった変異株感染者はすでに東京都内でも見つかっているが、この変異株は感染力が強いだけではなく、「日本人に多い白血球の型による免疫が効きにくくなる」とも指摘されている。にもかかわらず、インドが水際対策強化対象国に指定されたのは5月1日になってのこと。さらに、いまだに入国後の隔離期間は3日間しかとっていない。
このように、早急に対応すべき変異株対策をまったく打ち出さず、むしろ悪化させるような対策のままでいる菅首相。それどころかこの連休中は、日本会議系の改憲集会に寄せたビデオメッセージではコロナをダシにして改憲による緊急事態条項の必要性を強調したほか、衆院選を睨んで菅首相が頼りにしている選挙プランナーの三浦博史氏をはじめとする選挙関係者や、松田公太・クージューCEOや北見尚之・リストグループ代表といった経営者との面会を繰り返していた。さらに、どう考えても緊急事態宣言の延長をするしかない状況でありながら、「判断が難しい」などと寝言を言っていた始末なのだ。
繰り返すが、いま菅首相がやるべきは、正式な会見を開き、これまで魔法の呪文のように「3密の回避」や「マスク会食」を唱えたことを撤回し、「屋外でマスクを付けていても感染する」という事実を踏まえて、濃厚接触者の定義の見直しをはじめとする抜本的な対策を打ち出すことだ。ところが、菅政権がいま力を注いでいるのは「私権制限ができないから感染が拡大する。改憲が必要」などと必死に喧伝することだけ。これで国民の安全を守れるわけがない。最低最悪の安全保障・危機管理だ。
危機感が圧倒的に欠如し、実効性のある臨機応変な対策を何ひとつとれない。この3回目の緊急事態宣言下であらためて、菅首相の無能ぶりがはっきりしたと言うべきだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2021.05.05 08:11