だが、この国民投票法改正案は、コロナのどさくさに紛れて強行採決されるようなことは絶対に許されない、「改憲への大きな一歩」となる危険極まりないものなのだ。
そもそも、この国民投票法改正案は、憲法改正の是非を問う国民投票で駅や商業施設に「共通投票所」を設けることなどが盛り込まれているのだが、問題なのは、この改正案にはCMなどの規制がない、という点だ。
おさらいしておくと、憲法改正が発議されれば国民投票運動が60〜180日間にわたっておこなわれるが、現行の「国民投票法」では、新聞広告に規制はなく、テレビ・ラジオCMも投票日の15日前まで「憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないように勧誘する」CMを無制限に放送することが可能になっている。しかも、投票日前2週間のあいだも「賛否を勧誘」しないCMならば投票日まで放送できる。つまり、有名人が登場して「私は憲法改正に賛成です」などという意見広告は放送可能だ。
つまり、CM規制がないまま改正案が通れば、170億2100万円(2021年度)というダントツの政党交付金を受け取っている自民党をはじめ、国会で多数を占める改憲派が潤沢な広告資金を抱えているため、CMを使った広報戦略では圧倒的に有利となるのだ。
実際、「令和」への改元時に自民党は、人気キャラクターデザイナーの天野喜孝氏を起用して当時の安倍晋三首相を似ても似つかぬイケメン化させるなどの広告キャンペーンを展開させたが、国民投票が実施されるとなれば、自民党があのとき以上の一大キャンペーンを張るのは明らか。いや、自分たちの無為無策を棚に上げ、新型コロナなどパンデミックの恐怖を煽りに煽り、改憲の必要性を訴えるのは間違いない。
さらに、菅首相は安倍前首相以上に芸能界に人脈があるとも言われており、改憲のPRには芸能人が大量投入されることも考えられる。また、CMを出稿するのは政党にかぎったものではなく、改憲派の団体や資金力をもった企業が有名人を動員して「憲法を改正しよう」というキャンペーンを張る可能性は十分あるのだ。