『報ステ』は前身番組である『ニュースステーション』時代から反権力色が強く、政権批判をしっかりおこなう報道番組として人気を博してきたが、第二次安倍政権下では政権からの圧力に屈し、古舘伊知郎のキャスター降板をはじめ、社会問題に対する意識が高いスタッフを首切りにするなどして政権批判色を弱めていった。そして、その代わりにスポーツ情報やカルチャーの話題が多く取り上げられるようになり、いまでは当たり障りのない番組へと“劣化”した。この路線変更にあたって振りかざされてきたのが、「若返り」「時代の変わり目」「リラックスした雰囲気」などという表面的なワードだった。
政権に睨まれるのを恐れ、「若返り」と称し硬派な話題や批判的な切り口を避けるようになり、エンタメ化していく──。しかし、これは『報ステ』だけの問題ではない。
嵐の櫻井翔や落合陽一などを曜日レギュラーとして起用し、エンタメ色の強い日本テレビの『news zero』が顕著な例だが、若いタレントや文化人を起用すると、なぜかセットで、政治や硬派な社会問題を深堀りするのではなく批判的視点や議論を喚起しない波風の立たない番組にしていくというのは、テレビ界のお決まりの流れとなっている。そして、その背景にあるのが「個人視聴率」の存在だ。
昨年、ネット広告費がテレビ広告費を抜いたように、テレビ界は大きな苦境に立たされているが、そんななか昨年4月からビデオリサーチは「個人視聴率」を導入。テレビCM出稿の指標として、従来の「世帯視聴率」からこの「個人視聴率」を重視する方向にシフトし、テレビ局はこれまで以上に「スポンサー広告料が高い」コアターゲットを意識した番組づくりが求められるようになった。日テレとTBSの場合、コアターゲットとしているのは「13〜59歳の男女」だ。
じつは、この「個人視聴率」への移行は電通が仕掛けたもの。数年前から「個人視聴率」の重視を提唱しており、実際、「個人視聴率」を導入したビデオリサーチ社の筆頭株主は電通グループであり、前社長も現社長も電通出身者だ。その電通がスポンサー広告をテレビ局に売る際、コアターゲットを意識した番組にしろと発破をかけてくるという。それによってバラエティやワイドショーのみならず、報道番組までもが「硬派より軟派に」内容を変更させているのだ。
「13〜59歳の男女」、とりわけ若い女性層をターゲットとして意識すると「当たり障りのない軟派な内容」になってしまうこと自体が視聴者を舐めているように思えるが、じつは、テレ朝はこの個人視聴率に基づくターゲッティングを「政権批判するコメンテーターの排除」の大義名分にも使っている。
実際、長らく『羽鳥慎一モーニングショー』で曜日コメンテーターを務めてきたジャーナリストの青木理氏が、昨日23日をもって番組を降板することを唐突に発表。詳しくは追って記事としてお送りするが、「若返りのためのコメンテーター刷新」という大義名分によって、現在のテレビ界ではもっとも強く政権批判をおこなう論客である青木氏が追い払われてしまったのである。
新型コロナをめぐる報道では、政府や官邸からいくら睨まれてもひるまず報道姿勢を変えなかったように、『モーニングショー』はテレ朝に残された最後の砦でもあった。しかし、それさえも「若返り」を理由に牙を抜き、奇しくも同じタイミングで、すでに骨抜きにされていた『報ステ』は差別に反対する声を嗤うようなPR動画を垂れ流したのである。
この国のテレビジャーナリズムは、すでに終わっている。今回の『報ステ』動画は、テレビ界全体を覆う根深い問題をも浮き彫りにしたといえるだろう。
(田岡 尼)
最終更新:2021.03.24 09:23