そう考えると、菅と安倍首相の行動は独断専行という点で共通しているように見えるが、動機がまったく違うということだろう。菅にとっては当時、とにかく原発事故を止めることが唯一最大の目的だった。だから、そのために怒鳴りちらしながらも、一方で事故を止めるための情報や科学的根拠を必死でかき集めようとしていた。だが、安倍首相の動機は、感染防止拡大より政治的な支持率回復のための“やってる感アピール”。だから、安倍首相は「桜を見る会」問題で激昂することはあっても、コロナで喚き散らすことなんてないし、科学的根拠なんて関係なく、専門家にも相談せず、平気で場当たり的な政策を打ち出してしまうのだ。
こうした2人の違いは、国民への向き合い方にも現れている。それを物語っているのが、少し前から、SNSで拡散されている菅の映像だ。震災から1カ月ちょっと経ったあと、菅原発事故で家を追われた大熊町や葛尾村の住民が避難する避難所に首相の菅が出かけたニュース映像が切り取られたもので、そこには、住民から呼び止められて激しい抗議を受け、何度も「ごめんなさい」と謝っている菅の様子が映っている。おそらく当時は、首相の情けない姿や政府対応への不満を強調するために流されたのだろうが、この動画はいま、200万回以上再生され、こんなコメントが多数ついている。
〈あの時はクソッタレ民主党!と思ったりもしたが、確かに逃げたりはしなかったな。政府が国民の怒りを受け止める真摯な姿勢があった。〉
〈住民の苛立ち、憤怒、やるせなさ等々のこもった罵倒を面前で受けている。それだけでもマシ!それだけでも総理の仕事をしている!〉
〈菅直人さんは、住民の話しもちゃんと聴く姿勢があった。批判も受け止めるし、そういうマイナスのシーンも報道に載っていた。安倍さんや麻生さん、菅さんはどうだろうか? まともな回答はせず、批判的な発言には蓋をし、報道にも載せさせない。〉
〈安倍さんだったら絶対に現地に出向いて住民の中に入るわけがない。〉
〈安倍なら無視して立ち去るだろうな〉
〈もし当時の首相が安倍だったら、この人達は警官数人に囲まれて引きずり出されていただろう事、そして、テレビではカットされるだろう事は確実。。〉
〈これと同じ事を安倍さんや麻生さんにやったら逮捕されそうで怖い。〉
たしかに菅は当時、こうしたかたちで国民の批判の矢面に立っていた。しかし、いまのコロナ対応を見ていると、抗議したら逮捕されるかどうかはともかく、安倍首相が同じように国民の怒りを受け止めるとはとても思えない。なにしろ、安倍首相は国民がこれだけ感染拡大に不安を感じているというのに、会見したのはたった2回だけ。危機的な状況の説明や国民に負担を強いる政策の説明はほとんど、加藤勝信厚労相や官僚にやらせているのだ。
これもまた、安倍首相の関心事が自分のアピールだけで、国民に寄り添う気持ちなんてさらさらないことの表れだろう。