しかも、醜悪だったのは、このような優遇を受けたNHKの報道だ。NHKは、安倍首相の辞任報道でこれまで以上に「安倍政権の功績」を強調し、“無念の辞任”を演出した。
たとえば、28日夜の『ニュースウオッチ9』(以下、『NW9』)で流された、第二次政権を振り返ったVTRでは、「アベノミクスで日経平均株価が2万円台に回復」「トランプ大統領とは個人的な信頼関係を築き、日米関係はかつてなく強固だと言われた」「政権運営の推進力にあげられたのが選挙での実績」などと無批判に並べ立て、森友・加計問題や「桜を見る会」問題は「内閣支持率低下の原因」として少し触れただけで、挙げ句、これらの問題を「長期政権によるおごりやゆがみの象徴だ」という自民党内の声でまとめあげた。そして締めは、会見で辞任を国民にお詫びする安倍首相の姿、「拉致問題をこの手で解決できなかったことは痛恨の極み」「志半ばで職を去ることは断腸の思い」といった安倍首相の発言と、辞任を惜しむ街の声……。
まず言っておきたいが、アベノミクスで日本経済が回復したわけではなく、株価が上がったのは日銀の株価指数連動型上場投資信託(ETF)買い入れや年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国内株の運用比率引き上げなど、公的資金による買い支えによるもので、いわば「官製相場」「ドーピング」にすぎない。トランプとの関係にしてもレイシストと親密な関係を結ぶという恥を世界に晒しているわけで、しかもイージス・アショアを筆頭にトランプの言いなりになって武器を大量に購入してきた問題もある。「選挙での実績」を挙げるなら、安倍自民党の関与が疑われている河井克行・案里議員の選挙買収問題にもふれるべきだろう。そして、森友・加計や「桜を見る会」問題は、「長期政権によるおごりやゆがみの象徴」などではなく、安倍首相による「政治・行政の私物化」の象徴にほかならない。
だが、解説者として登場する政治部記者たちは、VTRを補強するかのように“安倍首相の功績”とやらを次々に強調した。
『NHKニュース7』に出演した岩田記者は、「“地球儀を俯瞰する外交”を掲げ、“外交の安倍”として手腕を発揮」「長期政権によって外交・安全保障政策の一貫性、継続性によって世界での日本の存在感が高まった」と言い、北方領土返還問題を悪化させたというのに、それは無視して「ロシア外交も精力的に進めてきました」などと解説。
さらに酷かったのは、最近、「フェイスシールド飲み会」を開催して話題になった政治部トップ・原聖樹政治部長の解説だ。『NW9』で原政治部長が「安倍政権のレガシー」として挙げたのは、よりにもよって「自衛隊の集団的自衛権の行使容認する安全保障法制」と「消費税率」だったのだ。