安倍首相がひと通り発言したあと、内閣記者クラブ加盟社と地元メディアからの質疑応答がはじまったのだが、最初に指名された内閣記者会幹事社であるテレビ朝日の記者の質問は、IR汚職でも、自衛隊中東派遣問題でもなく、「総理任期が残り2年を切ったが内政面で課題は何か。また、憲法改正で年内発議はあるか」というもの。さらに2番目に指名された地元・三重の朝日新聞記者も「五輪開催外の地方の経済効果をいかに波及させたいと考えているか」と質問し、いずれも「いま訊くべき話がそれなのか?」という内容だったのだ。
そして、3番目に指名された、やはり内閣記者会幹事社である朝日新聞の記者は、ようやく「桜を見る会」について質問。世論調査で説明不十分とする意見が7割を超えていることや、ジャパンライフ会長招待問題について「総理は個人情報を理由に山口会長を招待したかどうかをあきらかにしていないが、山口会長が招待されたことを自らあきらかにしている以上、個人情報にあたるとは言えない」と指摘し、名簿を破棄しているとしても聞き取り調査などで調べる気はあるのかと問いただした。
だが、安倍首相は、「個人情報にはあたらない」という記者の指摘を完全に無視して、「個々の招待者については個人に関する情報であるため招待されたかどうかも含めて従来から回答を差し控えている」と拒否。「今後も丁寧に対応していく」と言って回答を終わらせてしまい、「調査する気はあるのか」という記者からの質問には何も答えなかったのだ。
何が「丁寧に対応」だ、と言いたくなるが、4番目に指名された地元・CBCテレビの質問は「第一次産業への対応は」というもの。そして、この質問への回答が終わると、まだ手を挙げている記者もいるのに、司会者が「10分近く遅れている」「次の移動もある」などと言って強引に会見を終了させたのだ。質疑時間は、わずか約15分だった。
つまり、かろうじて「桜を見る会」問題の質問は出たものの、IR汚職や自衛隊派遣問題についてはひとつも質問が飛ばなかったのである。
本来なら、IR汚職や自衛隊派遣問題は記者が我先にと質問すべき重大事だ。いや、「桜を見る会」の質問に答えなかったことや手を挙げる記者がいるのに強制終了したことなどに対し、記者たちが取り囲んで抗議して当然の話だ。だが、そうした質問もなく、抗議も起こらず、唯一、会場をそそくさとあとにする安倍首相に対して女性記者がIR汚職を追及する質問を投げかけただけ。無論、安倍首相はその声も無視し、女性記者に追随する声も記者席からはあがらなかった。
政権を揺るがすIR汚職に一言も言及しない総理に、忖度して何も訊かない記者……。きょうの質疑応答でも安倍首相は時折手元に目を落としており、あらかじめ質問が聞き取られ、回答を用意していた可能性が高いと思われる。こんな茶番に付き合うメディアや記者がいることで、国民が重大事を重大事として認識しない状態が生み出されてしまうのだ。
トランプの宣戦布告も、国会議員に次々に波及している汚職問題も、まるでなかったことのよう。このだらしなさはもはや安倍政権の政策に賛同するか反対するか以前の話だ。こんな総理とメディアの姿勢で、ほんとうにこの国は大丈夫なのだろうか。
(編集部)
最終更新:2020.01.07 01:20