もちろん、徳井は診断を受けたわけでもないし、漏れ伝わるエピソードだけでADHDと断定はできるものではない。また、芸能界で成功を収め、テレビ番組であれだけ器用に場を回している徳井が発達障害なわけがない、という指摘もある。
しかし、『あなたの隣の発達障害』(本田秀夫/小学館)によれば、そもそも、大人の発達障害の診断は明確なものではなく、〈障害の症状の軽重と社会適応の良否が必ずしも比例しない〉のだという。そして〈発達障害に関しては、行動の特徴が診断基準にばっちり当てはまらない人たちのなかにも、日常生活を送るうえで困っている人が大勢〉いるのが現実なのだ。
実際、ネットでは徳井に対する非難の一方で、「わかる、わかる」「他人事じゃない」という声もたくさんあがっている。公共料金の支払いや納税、行政手続きの困難さや、遅延した体験を告白する人も多い。引き落としの手続きが面倒でできない、住所変更の手続きを何年もしていない、ガスや電気は毎回止められるギリギリに払う、そもそも郵便ポストを開けられない……。
もちろん、芸能人も例外ではない。掟ポルシェがツイッターで、以前女優の麻美ゆまがインタビューで語ったことをこう明かしている。
〈チュートリアルの徳井さんが電気水道ガス代等滞納して度々止まってたんでADHD疑いかかった話で思い出したけど、麻美ゆまさんに以前インタビューした時も同じで、しかも麻美さんの当時住んでたマンションの1Fがコンビニって話聞いて震えたの思い出した。人間には出来ることと出来ないことがある。〉
また、ガッキーこと女優の新垣結衣も、インタビューで公的支払いへの苦手意識を吐露したことがある。
「まだ子供だから、光熱費とか年金の支払いの督促状がごっちゃになってわかんない(笑)。それをこのお正月、全部お母さんにやってもらって……お嫁に行ったらお金の管理もできなきゃいけないと思うと、まだまだです(笑)」(「週刊文春」2012年2月2日号/文藝春秋)
ちなみにガッキーは「まだ子供だから」と言っているが、当時23歳だ。
もちろん、こうしたケースがADHDやADDに起因するものかどうかも不明だ。ただ、診断を受けているかどうか以前に、行政手続きや事務処理が極端に苦手な人というのが、一定数いるのは紛れもない事実。前掲書『あなたの隣の発達障害』によれば、発達障害には「日常生活のなかで困っていることがあるかどうか」が診断基準のひとつになっているという。また症例が蓄積されるにつれて〈当初よりも典型的ではない多彩な特徴をもつ症例が見いだされるようになり、スペクトラム概念が導入されるなどして拡大してきた〉という経緯がある。だとすれば、こうした公的手続きが苦手というのも、本人の性格ややる気の問題に還元するのでなく、何らかの障害や症状の可能性やしかるべきサポートの必要性も考えるべきではないか。