しかし、いくら朝鮮学校出身(東京朝鮮中高級学校)の安との親交が深いといっても、「国の威信をかけて戦う」「サムライブルー」などとナショナリズムが扇動されるサッカー代表の中心であった本田が、しかも「朝鮮学校」という日朝関係の影響で日本中から差別と攻撃を受けている場所を訪問するというのは──こういうことをあえて強調したくはないのだが──周囲から様々な「リスク」として捉えられたであろうことは、想像に難くない。
周知の通り、朝鮮学校は朝鮮総連の影響を受ける民族学校で、長いあいだ根強い在日差別に晒されてきた。しかも、近年は日朝関係の悪化で、より激しい差別や攻撃を受けるようになった。
きっかけは、北朝鮮のミサイル、核開発や拉致問題だった。90年代に北朝鮮が最初のミサイル発射実験をすると、朝鮮学校の女子生徒のチマチョゴリが切り裂かれるなどの傷害事件が発生。さらに2002年、拉致問題がクローズアップされると、生徒への暴行や脅迫などが増加した。
以前は、そうした朝鮮学校差別を批判するような論調もあったが、2000年代以降はその声がどんどん小さくなり、逆にネット右翼や右派メディアによる朝鮮学校攻撃や在日差別がどんどんエスカレートしていった。
さらに、近年は、行政までが差別に加担するような状況になっている。第二次安倍政権下では、朝鮮学校を高校無償化対象から除外すると表明。北朝鮮ミサイル問題を煽る安倍首相のもとで、各自治体による朝鮮学校への補助金停止が相次いだ。
そうした政治姿勢に引きずられ、さらに、ネット右翼、メディア、世論が一体となって朝鮮学校を攻撃する状況になっているのだ。しかも、その攻撃は朝鮮学校だけでなく、差別を批判する冷静なメディアや著名人にまで向けられるようになった。
少しでも、朝鮮学校を擁護する(と受け止められる)言論は真っ先に非難・攻撃の対象として、「スパイ」「反日」などとレッテルを貼られるようになり、日弁連などが朝鮮学校に対する補助金停止に反対する声明を出すと、ネット右翼を中心に弁護士に対する懲戒請求が連発された。
そういう意味では、芸能人やスポーツ選手が朝鮮学校について擁護的な発言をすることは、ほかの政治的発言以上に完全にタブー化している。
そんななかで、本田は朝鮮学校を訪問し、しかも、その真意を隠すことなく、インタビューで語った。朝鮮学校の生徒たちに一番伝えたかったことを尋ねられて、こう述べている。
「僕が一番伝えたかったのは、両国の間に歴史として様々な事があったとしても、僕らが人である限り、“仲間”になれるんだ!ということを伝えたかったんです。そして少なくとも僕とヒョンニン(安英学)はそういう関係だということを伝えたかった。そして朝鮮学校を訪問することで、間接的に日本人にも同じことを伝えられればという想いがありました」(前掲の金氏によるインタビュー記事より)