批判が巻き起こった『タイキョの瞬間』(フジテレビ公式HPより)
6日に放送された『密着24時!タイキョの瞬間 出て行ってもらいます!』(フジテレビ)に大きな批判が巻き起こっている。
これは法務省・入国管理局の入国警備官などに密着したドキュメント形式のもので、番組では不法滞在の摘発の様子などを放送。ナレーションで何度も「追い出す」「出て行ってもらいます」と繰り返されるという内容だったのだが、なにより批判が殺到したのは、なぜ不法滞在に至ったのかといった事情やバックグラウンドにまったく触れることはなく、一方的に外国人を極悪人のごとく扱ったことだ。
なかでも悪質だったのが、技能実習生として来日していたベトナム人女性の取り上げ方だ。番組では「技能実習生の無許可の資格外活動は不法就労にあたり、この女も強制送還となった」とだけ伝え、摘発の様子を放送した。
しかし、日本の外国人技能実習制度は「現代の奴隷制度」「人身売買の一種」と呼ばれるほどに劣悪なものであり、最低賃金も残業代などの労働関係法も適用外で、賃金未払いだけではなく過労死や雇用側の暴力、パスポートの取り上げといった問題が横行。こうした実態に国際社会から「強制労働」などと批判を受けてきた。だが、『タイキョの瞬間』は技能実習生をめぐるこのような問題点には一切言及せず“不法就労の悪人”として描き、全体を通して“入管の正義”だけをアピールする内容だったのだ。
だが、それも当然の話だろう。というのも、番組では「取材協力」として東京入国管理局がクレジットされており、放送前には東京入管の公式Twitterアカウントが「現場で奮闘する入国警備官と入国審査官の姿をぜひご覧下さい!」などと番組を紹介、番組のURLまで貼り付けてPRまでおこなっていたのである。
しかも、この“入管のプロパガンダ”を垂れ流したのはフジテレビだけではなかった。昨夜、テレビ東京で放送された『密着!ガサ入れ』なる番組も、『タイキョの瞬間』と同様、東京入管の公式Twitterで紹介されていたのだ。
その放送内容も酷かった。番組では、税金の滞納や交通違反などさまざまなガサ入れに密着していたが、入管警備官たちの捜査にも密着していた。多くの外国人が働いていると通報があったというクリーニング工場と、タイ人女性が働くスナックへの、内偵調査と強制捜査の現場に同行。「難攻不落の砦」「不法就労の巣窟」などと外国人たちを極悪人集団のように煽り、「ガサ入れせよ!」「ついにガサ入れの扉が開く」などと強制捜査を盛り上げた。
さらに、入国警備官が外国人労働者たちを「待て、おら!」と怒鳴りつけ追いかけ回す様子を垂れ流すばかりか、タイ人ホステスの自宅の持ち物やバナナをあげつらうなど、見るに耐えないほどの差別的・非人道的な内容。しかも捜査への批判的視点や不法就労の背景の説明などは一切なく、当局目線に丸乗りの代物だった。
いや、フジやテレ東だけではない。6月6日に放送されたNHKの『クローズアップ現代+』では「自称“難民”が急増!? 超人手不足でいま何が…?」と題して特集したが、その内容は、あたかも難民申請者は就労目的の“偽難民”ばかりだと言わんばかりのもので、実際、名古屋入局管理局の部長が登場すると“本当に困っていたり、政治的迫害を受けて難民申請したケースはほとんどない”などと断言。一方、日本の難民政策の問題や、実際に戦争に巻こまれ、あるいは政治的迫害を受けて逃げてきた難民の存在については一切触れず。つまり、この番組もまた入管PRのような仕上がりで、難民支援に取り組むNPOなどが抗議の声明を出している。