これは、日本が豊かで、貧困者が少ないからではない。先に述べた通り、「生活保護は税金泥棒」という倒錯した倫理観が日本社会を覆っているため、本来は生活保護を受けて暮らしを立て直すべき貧困状態にあるのにも関わらず、生活保護を受けずに我慢しているからだ。実際、日本で生活保護を受ける資格がある人のうち、受給している人の割合を指す「捕捉率」は2割程度だといわれている。問題にすべきは不正受給などではなく、むしろ捕捉率の低さのほうなのだ。
そういった状況を改善するためには、やはり国民ひとりひとりが生活保護をはじめとした社会福祉制度について学び、植え付けられた誤解と偏見をなくす必要があるだろう。前掲「世界」のなかで安井弁護士はこのように語っている。
「生活保護に限らず、社会保障、公的扶助の本質を一般の人々が理解できないのは、本来はその理解促進を図るべき政治家やマスコミがそれを怠っているからだと考えます。
制度をどのようにしていくかという議論以前に、なぜその制度があるのかという基本を教育課程のどの段階でもきちんと学ばないことにも原因があると思います」
同対談のなかで柏木ハルコも「社会の人々が生存権の意味を理解したり、社会保障の必要性を感じるためには、様々な切り口で教育を行わなければならないと思います」と語る。
その意味でも、マンガやテレビドラマの『健康で文化的な最低限度の生活』は、とても大きな役割を果たすはずだ。『健康で文化的な最低限度の生活』が、多くの人々にとっての学びの機会となって歪んだ生活保護への認識を是正し、まともなかたちの議論が生まれる契機となることを切に願う。
ちなみに主演の吉岡里帆は、学生時代、落語家・桂春蝶のファンで春蝶に落語を習ったこともあるという。吉岡ブレイク後に春蝶もツイッターやブログで自慢していた。春蝶といえば、自己責任論を振りかざし貧困バッシングを繰り返しているが、ぜひ弟子のドラマを見て、貧困問題について学んでほしい。
(編集部)
最終更新:2018.07.17 08:54