ただ、詐術だからといってその危険性はいささかも減じない。逆だ。そもそも、つるのは頻繁にテレビに出演し、ツイッターでは約59万人のフォロワーをもつ売れっ子タレントだ。そのつるのが極右界隈とほとんど同じ主張を、極端なトーンでなく、“天然系のよき父親”というキャラクターで拡散させている。それはある意味、ネトウヨにしか言葉が届かない百田尚樹や竹田恒泰よりもはるかに影響力が高いだろう。
しかも、繰り返すがソフトなのはイメージだけで、その中身は醜悪なネトウヨ思想と大差ない。実際、つるのは「ただ日本が好きなだけ」と言うが、『虎ノ門ニュース』でも語っていたように、その言葉のあとには「愛国者の足を引っ張るな」と続くのである。だいたい、靖国の特質性すら知らない(あるいは知らないふりをしている)人間が「愛国者」のツラをしているだけでもおこがましいが、ことさら「愛国」を笠に着て異論に圧をかけるやり口はファシズムだ。
見方を変えれば、だからこそ極右界隈はいま、つるのに熱烈なラブコールを送っているのだろう。たとえば、極右雑誌「正論」(産経新聞社)2016年3月号に掲載された自称・保守女子たちの座談記事では、彼女たちが注目している芸能人として、ネトウヨ芸人・小籔千豊とともにつるの剛士の名前をあげられた。また、本サイトでも以前お伝えしたが、つるのは、あの「親学」関連のイベントに複数回参加、告知ポスターにも顔写真入りで前面に押し出されていた。
念のため言っておくが、親学とは日本会議の中心メンバーである高橋史朗が提唱する教育理論で、「児童の2次障害は幼児期の愛着の形成に起因する」などというデタラメを主張するもの。教育の責任を親とりわけ母親だけに押し付け、“子どもを産んだら母親が傍にいて育てないと発達障害になる。だから仕事をせずに家にいろ”という科学的にはなんの根拠もないトンデモ理論だ。
つるのは、Twitterでイベントへの関与とその危険性を指摘されると〈親学ってなんでしょうか?全く知りません。詳しく教えてください〉と無知を装ったが、結局、読者に親学について解説されてもスルーし親学の内容を否定しない。
前掲の著書『バカだけど〜』でもまた、親学の中身や自身の評価ついてはネグったまま、〈僕は自分の子育ての実体験を話すためにイベントに出させていただいただけなのに、それだけで「広告塔」だとか、「“親学”に関与している」なんて言われてしまったのです〉〈1回でもそういうところに出たという事実だけを切り取って、「この人は○○という団体の人間なんだ」みたいにレッテルを貼る〉と被害者ズラをしている。言っておくが、つるのが親学関連イベント参加したのは1回だけではなく、ポスターを見てもつるのが「広告塔」として扱われているのは明らかであるし、不本意にも利用されたのならば主催側に怒るべきであって、親学の思想の危険性を指摘する声を攻撃するのはお門違いにもほどがある。
“良きパパ”キャラで政治的無垢な中立を装いながら極右界隈の主張を広めるつるのは、脂ぎったオッサンばかりの安倍応援団や右派論壇からみれば、喉から手が出るほどほしい人材だ。そしておそらく、つるのもまた、そうした極右界隈のニーズとビジネスチャンスを十分に意識している。でなければ、ネトウヨ思想そのものの浅薄な本を出版したりはしないし、ネトウヨ御用達の『虎ノ門ニュース』に嬉々として出演したりもしないだろう。
いずれにしても、ある人が「ただ日本が好きなだけ」「普通の愛国心を持っている一市民」を自称するとき、その「だけ」「普通の」という言葉に隠された圧力と自己正当化を見抜かねばならない。それが、つるののような影響力のあるタレントならばなおさらだ。「愛国者の足を引っ張るな」なる主張がまかりとおる社会は危うい。面妖な「愛国タレント」にゆめゆめ騙されてはならない。
(編集部)
最終更新:2018.06.23 07:53