だいたい国際政治学者を名乗る三浦氏は、これまで権力の不正事件で、どれだけの官僚や政治家の秘書が自殺に追い込まれてきたか知らないのか。彼らの多くは上の命令でやっただけなのに、責任を押し付けられ、脅され、自ら死を選ばざるをえない状況に立たされてしまったのだ。
実際、今回の改ざんも佐川前理財局長が命じたという報道があるように、明らかにこの職員の責任でないにもかかわらず、自死に追い込まれた。本来なら、政界や官僚の世界でこういう悲劇が起きたときに真っ先に追及しなければならないのは、疑惑や不正を隠蔽しようという政治家や役所幹部の無責任な体質のはずだ。それを、三浦氏は自死を選んだ職員の判断の問題にしてしまったのだ。
しかも、三浦氏が問題なのは、発言の動機が事件の矮小化にあることだ。公文書偽造はけっして「小さい」問題ではない。民主主義の根幹をゆるがす重大な問題だ。有印公文書偽造が罰金刑でなく、いきなり懲役刑という厳罰が課せられているのもそのためだ。
国際政治学者である三浦氏がそれを知らないわけがないだろう。にもかかわらず、職員の自殺を利用するかたちで「死ぬほどの問題じゃない」などと言ったのは、事件を矮小化させて、安倍政権を援護したいという意図があったとしか考えられない。
事実、三浦氏はこれまでも、一見、中立を装いながら、アクロバティックなレトリックを駆使して安倍政権を擁護してきた。
たとえば、加計問題では、昨年8月11日放送の『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)で、こんなふうに言い募った。
「私、べつに加計問題はよくないと思っているんだけど、じゃあトヨタだったらどうなるんだと、ここちょっとダブルスタンダードがあるんですよ」
「この政権は、円安誘導政権で、明らかに輸出企業を優遇してるんだけど、だけどもそれが名のある企業が、審議会に入っていたり、アドバイスしたり、要望を出したり、会食することが、できなくなったら、どうなるんだって」
「加計学園という規模の小さな人たちが、個人的なよしみで、なんらかのおいしい思いをさせてもらったらしいというストーリーだから、国民が罰したくなる。これがトヨタだったら、『日本の命運を支えるトヨタのためには』って(誰も問題にしない)」
「みなさん、口利きの現状知らないっておっしゃるんですか。口利きの現状の現場って見たことないんですか? え? 見たことないんだとすると、それは日本政治を知らないってことになるけど(笑)」
「ひとつひとつ地元洗ってみたら、日本全国、事業者やってたら、こんなこと当たり前ですよ。口利きはね」
まったく次元の違う話を意図的に混同させて、安倍政権の不正を普遍的な問題にすりかえる。本当にタチの悪いやり方だが、おそらく今回もそういう論法を使って、公文書改ざんという国家的犯罪を矮小化しようとしたのだろう。しかし、「スリーパー・セル」発言と同様、思わず口が滑って、本音がだだ漏れになってしまった。そういうことはないだろうか。