また、オリンピックにおいては、今井が経験したような「メダルを獲れなかった者へのバッシング」のほかにも、理不尽なバッシングがしばしば起こる。それが、「素行不良」などを理由にしたバッシングだ。
現在、その標的になっているのがノルディックスキージャンプの高梨沙羅であることに異論はないだろう。15歳で日本女子として史上初となるワールドカップ優勝を果たした頃には、すっぴんで素朴な少女だった高梨だが、大人になるにつれ公の場に出るときはメイクをするようになっていき、そのことをあげつらって「美容にうつつを抜かしている場合か」などというバッシングの声があがり始めた。
一度このようなバッシングの種火ができると、あとは際限なく炎上させるためのあら探しのようなものが続いていく。ベンツ所有者向けの会員誌「メルセデス・ベンツ・マガジン」17年冬号にて、彼女がベンツ所有者であることがわかると、今度は「大事な時期に高級車を乗り回して遊んでいるんじゃない」などという批判が起きた。
メイクもベンツも競技とはなんの関係もないが、この国ではそういった瑣末なところをあげつらってバッシングが起きるという流れが幾度も繰り返されてきた。
その典型的な例が、スノーボードハーフパイプでトリノとバンクーバーのオリンピックに出場した國母和宏だろう。
彼がメディアに叩かれだしたきっかけは、バンクーバーへ出発する際のファッションだった。ドレッドヘアーにサングラスをかけ、さらに、シャツをパンツの外に出したうえ腰でパンツをはくスーツの着崩しがワイドショーで流れると批判が殺到。結局、國母は選手村への入村式を欠席することになるが、その後に開かれた記者会見での発言が、このバッシングへの火に油を注ぐ結果となる。
記者のしつこい質問にいらついた國母は「チッ、うっせぇな」と舌打ちしたうえで「反省してまーす」と答え、この様子もまたワイドショーで大きく報じられることになる。このバッシングは政府にまで広がり、川端達夫文部科学大臣(当時)は「代表の服装としては全く適切ではなく極めて遺憾。一緒にいたコーチが服装について指導せず、記者会見も本当に反省している態度では無く、皆の期待を受けて国を代表して参加している自覚が著しく欠けていた」と発言。一時は出場することすら危ぶまれたが、なんとか出場することはできたものの、8位入賞でメダルは逃した。