12年にしほり氏がBuono!(元℃-uteの鈴木愛理と元Berryz工房の嗣永桃子・夏焼雅による3人ユニット)に提供した楽曲「初恋サイダー」は、リリースされた後、吉田凜音をはじめ多数の地下アイドルがカバーする地下アイドルのアンセムとなり、「Buono!初恋サイダー歌われすぎ問題」というネット記事まで書かれるほどになったのだが、その一方、著作権者であるしほり氏のもとにライブハウス使用料は1円も払われていなかったという。毎晩のようにライブハウスの舞台上で多数の地下アイドルによってカバーされていたのに、ライブハウス使用料が0円はありえない。そのことに疑問を抱いた彼女はJASRACに問い合わせたようなのだが、そこで返ってきた、もはや呆れるほかない回答をこのようにツイートしている。
〈私が自分で、いつどこで誰がカバーしたかをしらべて提出すれば、計上されていなかったぶんはお支払いできる、とのことでした。
個人じゃ把握できないデータを調べるのがJASRACさんのお仕事なのでは?
という質問には、無言で、ただ、調べていただければお支払いします、の一点張りでした。〉
とんでもない仕事放棄としか思えない回答だが、実は、この「包括契約」という方式は、ラジオやテレビなどの放送の分野でも問題視され、そちらでは裁判の末に独占禁止法違反の判決を受けたことがある。
放送業界における包括契約も、先ほどのライブハウスでの契約と仕組み的にはほぼ同じ。「どの曲が何回放送されたか」などを1曲ずつ正確にカウントして楽曲使用料を算出する方法をとらず、放送局がJASRACに月単位、または年単位で一括して払うことにより「JASRACに登録されている曲はすべて使用可能」という許諾をとるのである。
つまり、言い換えれば、JASRACに登録されていない楽曲を使用しようとした場合、その楽曲の管理者に報告したうえで、別に使用料を払うという面倒とコストが加わるということになる。その場合、放送局がどういう行動に出るかは言うまでもないだろう。JASRACの管理下におかれていない楽曲を放送自粛するようになるのである。
JASRACのこの状況に異議申し立てをし、独占禁止法違反の判決を引き出した著作権管理事業会社のイーライセンス(事業統合により昨年2月よりネクストーンに改称)の三野明洋取締役会長による著書『やらまいか魂 デジタル時代の著作権20年戦争』(文藝春秋)には、ラジオ局の内部でこんな文書がまわっていたと綴られている。
〈たとえば、J-WAVEが番組担当者あてに配布した「イーライセンス社 放送使用楽曲の管理業務開始のお知らせ」には、わざわざ丁寧に【選曲時のお願い】として、「前述のとおり、別途報告・支払いなど煩雑な作業が発生します。 *やむをえない場合を除いて、当面は極力使用を避けるよう、お願いします」と付け加えてあった。
(中略)
さらに、FM NACK5という埼玉の放送局にいたっては、〈楽曲オンエアの制限について〉として、大塚愛、倖田來未、Every Little Thingなど具体的にイーライセンスが管理するアーティスト名と作品名の60曲リストを添付し、「オンエアを当分見合わせることに致します」としたのは決定的だった。後日、裁判では大きく問題視された〉