しかし、配給会社が沖縄の名をひたすらに隠す本当の理由は〈沖縄の方への配慮〉なのだろうか。
実は、この映画には前田高地のある沖縄・浦添市が協力している。松本哲治浦添市長は、この映画に対し〈観た人たちがこの映画を通して、これまでと違った視点から戦争の愚かさや平和の尊さ、命の意味について見つめ直して頂きたいと願います。〉と『ハクソー・リッジ』公式ツイッターアカウントにコメントを寄せており、加えて、浦添市のホームページでは、映画のシーンと現在の前田高地の写真などを比較しながら、戦闘の状況などを事細かに解説する記事までつくっている。
では、何が原因なのか? 前掲のキノフィルムズ担当者が語った「このような“反日的な”映画を公開するのかという声もあった」という言葉にその理由があるのではないか。
先の戦争をアメリカや中国、韓国側の視点で描いた表現に対しては、ことごとく、ネトウヨから「反日だ」との攻撃が加えられてきた。これは映画も例外ではなく、太平洋戦争中に日本軍の捕虜となった実在の人物を描いたアンジェリーナ・ジョリー監督作品『不屈の男 アンブロークン』(2014年アメリカ公開、日本公開は2016年)は、ネット上で公開中止を求める運動が起き、大手の東宝東和が公開を断念。独立系の配給会社が小規模で公開せざるを得なくなった。おそらく、そういう状況になることを懸念したのだろう。
映画評論家の町山智浩氏は『ハクソー・リッジ』の宣伝文句が歪なものとなった理由を、この『不屈の男 アンブロークン』の例を挙げながら、こうツイートしている。
〈「アンブロークン」が反日的と騒がれたために公開が遅れたので、そのような事態を避けるために沖縄戦であることを隠すことにしたのです。明らかにしていたら、こうして公開できなかったかもしれません。〉