映画を通じて環境や社会問題についてメッセージを届けようとする思いは亡くなる直前も変わらなかった。なんと晩年には、3.11を受けて新しいヘドラの映画をつくろうとも企画し、シナリオづくりにも着手していると語っていたのだ。17年3月4日付東京新聞に掲載されたインタビューではこのように語っている。大事故を経験したのにも関わらず、原発を捨てようとしない政府に対し、坂野監督は怒っていた。
「問題に技術ですぐ対応するのが日本の文化のはず。原発なんて早くなくせばいい」
「日本人の映画監督として実現させる義務がある」
志半ばで鬼籍に入ってしまったことが残念でならない。というのも、やはり、映画には、人の人生を変え、社会を変える力があるからだ。
『ゴジラ対ヘドラ』は、ゴジラが死闘の果てにヘドラを倒した後、もう一匹のヘドラがヘドロだらけの海面から顔を出し、「そしてもう一匹」というクレジットが出る不穏なシーンで幕を下ろすのだが、前掲『怪獣少年の〈復讐〉』に坂野監督が寄せた文章にはこんな話が出てくる。
〈2014年8月3日、成田のヒューマックス劇場でのハリウッド製『ゴジラ』の上映とトークショーの後の懇親会で、五〇代の男性が坂野に話しかけてきました。
「僕はヘドラのラストタイトル『そしてもう一匹』を見て一生の仕事を決めました」
「それは何ですか」
「無農薬農業です」〉
地球にとって本当の脅威とは、怪獣ではなく、人間である。映画が伝えるメッセージを改めて噛み締めつつ、坂野監督の冥福を祈りたい。
(新田 樹)
最終更新:2017.05.24 12:05