「ダ・ヴィンチ」(KADOKAWA)2017年5月号
星野源の表現のポップ化、『化物』と『SUN』のあいだ
昨年の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)をきっかけとしたお茶の間でのブレイク以降、いよいよ星野源の勢いが止まらない。
5月にNHKでテレビ初の冠音楽番組『おげんさんといっしょ』が放送されることが明らかになり大きな話題となっている。今月は主演声優を務めたアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』も公開され、先月末に発売された最新エッセイ集『いのちの車窓から』(KADOKAWA)は重版が連続し、累計発行部数は早くも24万部に到達。先日は、過去に糸井重里、タモリ、内田樹、リリー・フランキー、是枝裕和といった錚々たる面々が受賞している「伊丹十三賞」を受賞した。
音楽、演技、文筆、どの分野でも外れなしでヒットを飛ばしまくっている状況なわけだが、こうなるとぼちぼち聞こえてくるのが、「星野源、ちょっとマス受け狙い過ぎなんじゃないの?」という古株ファンからの声だ。
確かに、特に音楽活動に顕著だが、ここ数年の星野源の表現のポップ化は著しい。現時点での最新アルバムとなる『YELLOW DANCER』は、内省的なフォーク色を薄めてソウルやR&Bに急接近し、より「みんなで踊れる」ポップミュージックを指向したものだった。その後にリリースされた「恋」も音楽的にはその延長線上にある。
ただ、そのポップ化の裏には、単に「大衆受け狙い」「セルアウトした」などとは片付けられない深い理由があった。そこには、2度にわたるくも膜下出血の手術、一度ならず二度も死の淵をさまよった経験が強く影響しているというのである。「ダ・ヴィンチ」(KADOKAWA)2017年5月号に掲載された小説家・米澤穂信との対談ではこのように語られている。
米澤「『化物』(3rdアルバム『Stranger』収録)の歌詞では、「僕」が「誰かこの声を聞いてよ」と言っていますよね。次に出された『SUN』(8thシングル、4thアルバム『YELLOW DANCER』収録)では、「君の声を聞かせて」となっている。これはご自身の心境の変化なのか、あるいはもともと根は一緒のものを違うかたちで表現したのでしょうか」
星野「さすがです! そこに気づいてくださるとは。心境の変化です。『化物』は病気で倒れる直前に作った曲なんですが、当時は心情的に「僕のことを誰かわかってくれ!」と、独り善がりな状態だったんですね。その痛々しさが、そのまま歌詞に出たんです。でも、倒れて休んでって期間があってからの『SUN』では、(中略)自分の外側に興味が向かっていました。それに気づいたのは、曲ができて少し経った頃で。よく考えたら『化物』と『SUN』は対になっているぞ、と。気づいていただけて嬉しいです」