もちろん、村上春樹のことだから、小説に直接的なメッセージを託すということは考えにくい。しかし、最近の村上は、小説でも『1Q84』でもオウム真理教をモデルにしていると思われる新興宗教団体を登場させるなど、これまでの社会的な問題意識を物語のなかにしのばせるようになっている。
そして、上述したような数々の政治的発言。こうした最近の傾向を考えると、今回の『騎士団長殺し』に排外主義や歴史修正主義への批判が含まれている可能性はかなり高いと言えるだろう。
もっとも、仮にそうだったとしても、前述したように、アンデルセン文学賞の授賞式スピーチですら、「影を語る」としか報道しなかった日本のメディアが、その隠された政治メッセージを伝えるとは思えないが……。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.20 04:26