なかでも昭和40年生まれ独身アルバイトの“島崎さん”の存在は、長年アルバイトを渡り歩く人々の縮図、そのものだった。
〈島崎さんの一日は、朝、八枚切りのパンを二枚食べることからはじまる。昼は、残りのパンとカップラーメン。(略)毎日この繰り返しで、一回の食費を一〇〇円以下に抑えている。
切り詰めているのは食費だけではない。送迎バスの乗り場まで電車に乗れば一駅のところを、三〇分かけて歩いてくる〉
保険にも入っていないらしく歯が痛んでも正露丸を詰めている島崎さん。借金もあるという彼は、しかし、慣れない作業で疲労困憊の横田氏を見かね、声をかけてくれもする。そんな島崎さんと昼食をともにするようになり、その楽天的生き方にある種の潔さを感じ“朋友”とまで思った横田氏は、あるとき、思い切って飲みに誘う。
〈「年明けにでもどうですか」
「だめですよ」
親指と人差し指で丸を作ってみせてこう言った。
「これがいっぱいいっぱい。家で焼酎を飲むのが精一杯です」〉
仲間と酒を飲む余裕もないほど困窮したバイト生活を島崎さんは続けていた。そんな島田さんはその後4カ月ほどで突然バイトを辞め、横田氏の前から姿を消してしまう。横田氏は潜入取材ならではの苦悩とバイト仲間への思いをこう吐露している。
〈(飲みに)誘う前に悩んだのは、私の正体を明かすかどうかであった。物書きであるのを隠しているのは居心地が悪かった。その後も毎日のように島崎さんと顔を合わせながら、この居心地の悪さにどうやってけりをつけたものかと考えていた。しかしこの日、島崎さんの思いっきりのいい辞め方を知って思った。後腐れなくさばさばやるのは、アルバイト生活の流儀にかなっているのだろう、と〉
こうした人々との交流から垣間見える現実。トップエリートのアマゾン社員、流通の日通と子会社の日通東京配送社員と契約社員、その下にいる大勢のアルバイト──。買いたたかれた労働者たちが支えるアマゾンという企業は、社会の縮図そのものだ。それは現在、横田氏が「週刊文春」誌上で臨場感たっぷりに描くユニクロの有り様とも重なる。
急成長する巨大企業のタブーに、潜入取材という手法で挑み続ける横田氏。ユニクロ潜入ルポは次号にも掲載される予定というが、今後、どんなユニクロの実態が飛び出すのか。最後まで目が離せない。
(伊勢崎馨)
最終更新:2016.12.16 11:25