〈警察の統計を見てもこうしたことは裏付けられます。暴対法施行から二十年後の現在、暴力団犯罪では恐喝が半減し、窃盗がほぼ倍増だそうです。
恐喝は暴力団であることを前提とした犯罪です。窃盗はどこの誰とも知られずに犯す犯罪です。罪種の変遷は暴力団が単なる犯罪者へと零落していることを語っているのではないでしょうか〉
このような厳しい風当たりに晒されるのはヤクザ本人だけではない。彼らの家族も同様だ。上野友行『ヤクザライフ』(双葉社)には、組長の男との間に2人の子どもを抱える愛人の証言としてこんなエピソードが紹介されている。
「2番目の子が保育園に入ることになったんですけど、直前になって急に断られて。お兄ちゃんも入ってたとこなのに、『理由は申し上げることができません』ですよ。それからお兄ちゃんは小学生なんですけど、『あの子の父親はヤクザだから付き合うな』とか露骨にハブられ(仲間外れにされ)てるみたいで。文句言いに学校乗り込んだら、『やっぱヤクザの女だな』とか噂されるに決まってるし」
こういった状況を受け、前述『ヤクザライフ』では、二次団体組長の立場にいる男がヤクザ稼業の未来に関してこんな悲観的な弁を漏らしている。
〈「これからどうなるんでしょうね、ヤクザ」
すると組長はいつもの馬鹿笑いではなく、ハハッと軽く笑った。そんなことはいつも仲間内で話題になっていて、とっくに回答は用意している。そんな感じの笑いだった。
「まぁ、壊滅でしょうね。犯罪組織に特化して生きながらえる残党や、一部の過激派のようなグループは出てくるでしょうけど、既存のヤクザのスタイルは存続できませんよ」〉
では、今後彼らはどうやって生活していくつもりなのだろうか? 「堅気(カタギ)になれるなら引退しますか?」という質問には、「はい」が16人、「いいえ」が47人、「どちらともいえない」が34人、「ノーコメント」が3人という結果が出ているが、厳しい状況にある割には意外にも「いいえ」と「どちらともいえない」が多い。それにはこんな理由があるようだ。
「元ヤクザを雇ってもトラブルの元になる。そんな会社はあってもまともじゃない。これまででかい顔して生きてたのに、いまさら頭を下げて生きるなんて無理」(西日本の独立組織幹部)
現在、暴力団離脱者の社会復帰を助けるため、「社会復帰アドバイザー」制度があり、元警察官が社会復帰アドバイザーとして支援を行っているが、芳しい成果が出ているとは言えない。
山口組分裂というのは一つの契機でしかなく、これから先も暴力団を離脱したいと考える人は増えこそすれ減ることはないだろう。しかし、そのための道が閉ざされているのであれば、犯罪組織化してマフィアになるしかなくなってしまう。今回の騒動をきっかけに実のある議論が求められている。
(井川健二)
最終更新:2017.11.12 02:52