一応、湊の怒りをなだめる姿勢をとってはいるが、押切を「女又吉」と表現しているのは、明らかに筒井流の皮肉。小説が売れない時代、出版社が話題づくりをするのは当然だが、今回の新潮社のあまりにプライドのないみっともない仕掛けには、ふだん付き合いのある作家たちまでがかなりあきれ果てていたということだろう。
とくに当事者である湊の怒りは激しく、ちょっとやそっとのことではおさまらないだろうと言われていた。湊はもともと、エキセントリックな性格で知られており、2010年に「女性セブン」(小学館)が湊の素顔を取材・記事化した際には、称賛記事であったにもかかわらず、プライバシー侵害に激怒。“小説家をやめる”と言い始めて、出版業界が大騒ぎになったこともあった。もしかしたら「新潮社からの版権引き上げ」なんてことも起きるのではないか、と囁かれていた。
興味津々で見守っていたところ、しかし、事態はなんとも肩すかしの結末に終わった。
問題の受賞エッセイが載った「小説新潮」が発売された2日後の、6月24日に山本周五郎賞の受賞パーティがあり、湊がどんな挨拶をするのか注目されていたのだが、このなかで、湊はいきなり押切の小説をほめはじめ、他の分野で活躍している人たちが小説を書くのはいいことだと言明。むしろ、押切のことを「イロモノ扱い」したマスコミを批判したのだという。
「湊さんは文壇内に睨みをきかそうとしたところ、ネットニュースで取り上げられ、押切批判だと大きな話題になったため、怖くなって慌てて火消しに走ったというところでしょう。だいたい、湊さんも売れっ子ではありますが、文芸の世界では評価しない人も多い。昔だったら、湊さんのような人は山周賞を獲れなかった、人のことは言えないだろう、という声もありましたし」(文芸評論家)
作家の権威を全面に出した“イヤミスの女王”と、小説を売るためにプライドを完全に捨て去った老舗文芸出版社の戦いは、なんとなく“どっちもどっち”という結果に終わったということらしい。
(林グンマ)
最終更新:2016.07.05 10:25