サッチャー政権以来の新自由主義政策の結果、公共サービスの崩壊、格差の拡大や政治不信が非常に深刻な問題となった。子どもの貧困も深刻で、2003年の時点で約150万人の子どもが相対的貧困の状態にあるという。ところが、イギリスでは前出のブレア政権時代に労働党が「第三の道」と称して新自由主義と見紛うような「小さな政府」への路線転換をしたため、弱者の味方であるべき左派政党がなくなってしまった。
そこにコービンが登場して左翼政党の本来あるべき姿を示した。すると、若者たちがようやく自分たちの立場を代弁してくれる政治家が現れたと、こぞって支持に回ったわけだ。しかも、コービンには『21世紀の資本』がベストセラーとなったフランスの経済学者、トマ・ピケティやノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツらが経済顧問としてついている。まさに、社会主義が時代の潮流になりつつあるというわけだ。
そもそも社会主義とは、弱肉強食の資本主義の弊害を是正し、より平等で公平な社会を目指す思想である。
日本やアメリカではソ連や中国などの強権的な国家体制と短絡的に結びつけ、「アカだ」と排斥する傾向があるが、実際の社会主義はもっと多様なものだ。たとえば、欧州では、イギリスの労働党、ドイツの社会民主党、フランス社会党などの社会主義インターナショナルに代表される社会民主主義がきちんと政治に根付いてきた。
この社会民主主義は、新自由主義の台頭によって一時、「時代遅れ」と片隅に追いやられていたが、ここにきて格差の拡大により、再び脚光を浴びるようになった。そして、社会主義的な考え方を一切受け付けなかったアメリカでも、サンダーズという社会主義者が受け入れられるようになった。
そのサンダースはこう言っている。
「たとえば、スウェーデンなど北欧には長年の社会主義の政権があり、おそらくほとんどの点において、それらの国々はアメリカよりずっと民主主義的だろう。選挙では80%、90%の人々が投票し、労働組合が強く、アメリカより開かれたメディアがあり、国民の全員に医療保険がある。そんなのユートピアだと言うかもしれないが、お隣のカナダだって二つの州が社会主義的な政府だ。社会主義を共産主義と同一視して批判するのは、あまりにも無知としか言いようがない」
考えてみてほしい。サンダースが言うように、経営者が従業員の500倍の報酬を受け取ることが道徳的に正しいと言えるのか? 前出のピケティも、アメリカの経営者に多く見られる高額報酬の正当性を合理的に説明することはできないと言っている。モノを生み出すよりもマネーを動かす方が儲かる社会──明らかに異常だ。これを是正するには社会主義的政策の導入しかないことに、アメリカやヨーロッパの民衆は気づき始めたというわけだ。