柏原が卒業年となった2012年にも田中がらみの名言が。走り終わった柏原が7区での走行を控える田中に「俺の貯金(リードしたタイム)を全部使っていい」と電話をかけ、田中は「区間賞取ったるわ!」と返答、見事に有言実行で区間賞を成し遂げた――というエピソードも。美しい友情だなあと普通に感動しつつ、「事実は小説よりも萌えなり」という言葉が頭をちらつく。おそるべし、リアル男子の友情。
東洋大絡みの言葉をもうひとつ、再び『勝利の名言』から紹介しよう。2011年、わずか21秒差で早大に敗れた東洋大。ひとりあたり2秒と少し縮めていれば……という惜敗の悔しさから、選手たちは“1秒をけずりだす”という意識で練習に励むようになったという。部員同士で「けずれ、けずれ」と声をかけあうこともあったそうだ。そして迎えた2012年の箱根駅伝で、東洋大は2位の駒澤大学に9分以上の差をつけて圧勝。絆の勝利だ!と胸が熱くなるエピソードだ。合言葉は「その1秒をけずりだせ」に形を変えて残り続け、2014年には選手の腕にマジックインキで書かれていたが、一部の選手はチームメイトに書いてもらったのだという。想像すると顔がほころぶ光景だ。
とまあ、ここまでは王道の名言を昇華してきたが、箱根駅伝にはもっとマニアックな萌えポイントもある。それは監督。三浦しをんや、お菓子研究家・福田里香、編集者・岡田育らの対談集『駅伝女子放談』(SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS)でも、監督萌えトークに花が咲いている。
例えば、スパルタ指導で知られる駒澤大学・大八木弘明監督。『勝利の名言』ではレースの最後で脚を叩く選手に対し「『叩く暇があったら、走れ!』とまで言ってしまった(笑)」と明かしているが、読んでるこっちは笑えないレベルの鬼監督ぶりである。しかし、ただ厳しいだけではない。『駅伝女子~』によると、2009年に総合13位に沈んだ際、試合後に「お前達は何も悪くない、俺のせいだー!」と大泣きしていたのだという。スポーツ漫画を地でいく熱血監督だ。眼鏡とスーツが似合うインテリ風の見た目なので、そのギャップも二次元的である。
大八木監督と違うベクトルの厳しさを感じるのが、東洋大・酒井俊幸監督。イケメンというよりはかわいい系の見た目とは裏腹に、立ち振るまいは非常にクールで、2012年の全日本駅伝では区間賞を獲得した5区の高久龍に対して「いい走りをした」と評しながらも「あくまで駅伝ですから、先頭に立たないことには、責任を果たしたことになりません」とコメントしている(『勝利の名言』)。そんな冷静を通り越してドSな酒井監督、『駅伝女子~』では「鉄紺騎士団と冷徹な姫」と評されている。30代男性をつかまえて「姫」って……という感じだが、一目見れば納得するはずなので、ぜひ選手に紛れる姿を探してみてほしい。