『老後破産 長寿という悪夢』(NHKスペシャル取材班/新潮社)
非正規雇用の割合が、初めて4割を超えた。近代日本史上初の異常な事態である。不安定な雇用と収入、何の保障もない若者たちは結婚や出産を躊躇し、生活に不安を持ち続ける日々。そして熟年層もまた、リストラや親の介護、年金への不安など自分たちの“老後”に大きな不安を抱え始める社会。それが現在の偽らざる日本の姿だ。
だが、それは将来のことだけではない。今日の『あさイチ』(NHK)でも取り上げられていたが、高齢者たちの間で「老後破産」はすでに現実のものとなっている。
昨年9月、同じNHKで放送された『NHKスペシャル 老人漂流社会 “老後破産”の現実』。この取材を詳細にまとめた書『老後破産 長寿という悪夢』(NHKスペシャル取材班/新潮社)には、その切実で恐怖ともいうべき実情が描かれている。
都内で一人暮らしをする田代孝さん(83歳)は、幼い頃に父親をなくし、旧制中学を卒業後ビール会社に就職、その後独立し居酒屋を経営していた。ずっと独身を通し現在は厚生、国民年金を合わせて月10万円ほどの暮らしだが、その生活は苦しい。家賃6万円を支払えば残るのは4万円。より安い家賃へ引っ越すにも引っ越し代は捻出できず、節約に節約を重ねてもギリギリの生活だ。しかも「年金をもらっているから生活保護は受けられない」と間違った認識を持っているため、受給される可能性があるにも関わらず自治体などに相談さえ行っていなかった。
しかし、田代さんは病気や介護が必要でないだけましなのかもしれない。都営団地に住む80代の菊池幸子さん(仮名)は要介護2を認定されており、介護費用が重くのしかかっている。主婦だった菊池さんだが、夫が亡くなるまでは2人で13万円ほどあった年金は、3年前の夫の死で8万円ほどに減少した。現在は身寄りもなく一人暮らしだ。
その生活の内訳は、1万円の家賃に介護費用は3万円。食費や生活費に7万円はかかり毎月3万円の赤字だ。しかもリウマチで足腰が弱り、むくみ、心臓病もあり、立っていることがやっとだという。ベッドから食事の入った冷蔵庫に行くにも、かなりの労力と時間を要する。外出したいとは思うが、それは2か月に一度だけ。年金支給日にヘルパーさんに連れられ預金を下ろす1時間ほどの間だという。理由はお金がないからだ。