まず、中村は、夫の印象をこのように語っている。
「最初から全然私のタイプじゃなかった。恋愛対象としては、という意味ですが。外見もそうだし、性格にしても、恋愛感情が生まれる余地は一切なし。なんというか、実にテンションの低い人で、ほあんとしてて優しいんだけど、ひどい優柔不断なヤツでして。こんな男と恋愛して、盛り上がるわけがない、と最初から分かっていました」
中村はその前にも一度結婚経験があるが、「いわゆる切った張ったの恋愛の修羅場、恋の泥沼劇場」となり離婚。「もう、二度と結婚なんぞするもんか」と思ってきたという。そもそも恋愛に対しては「どう考えても「パートナー」になりえない男しか好きになれな」かったらしく、「一度恋をしはじめると、完全にブレーキが壊れたバカ女状態と化し」てきた。
もう泥沼恋愛は疲れた、恋愛なんてゴメンだ──そんな気持ちでいたところに出会ったのが、結婚を決めた彼だった。しかし、前述したように、中村には彼への恋愛感情はない。そして、セックスの関係もない。「でも、それがわが夫婦なんです」と中村はきっぱりと言う。
「セックスのない夫婦関係なんて、そんなもの耐えられるのか? って思われるかもしれないけど、だいたいにおいて私自身、元来それほどセックスってもんが好きじゃない。
若いときっていうのは、セックスすることイコール愛情だと思い込んでいたっていう部分があって、嫌っていうほど抱かれるなり、一生懸命にやってくれるなりされると、こっちも一生懸命それに応えましょう、みたいなことがすなわち「愛」であると」
だが、年を経るうちに義理や気遣いでセックスをしているのでは?と思うようになっていった。しかしそれも当然のこと。激情は持続せず、緩やかになっていくように「愛情の変質っていうのは不可避的なもの」だからだ。