まず、吉沢やすみがスランプに陥り、苦しんでいく葛藤を間近で見続けてきた長男の吉澤康宏氏は、2015年1月にウェブサイト「みんなのごはん。」(ぐるなび)に掲載された連載漫画『田中圭一のペンと箸 ―漫画家の好物―』のなかで、父の姿をこう語っている。
〈そのころの父はマージャンしてるか、テレビ見てるか、寝ているか、酒を飲んでるかでした。今にして思うとプレッシャーに耐えられず現実逃避していたのかも…〉
〈あのころ何度かマンガの依頼もあったんですけど、ペンを持つと手が震えるようになり、そのうち吐き気も止まらなくなって、思うように作品が描けなくなってしまいました〉
〈その後、清掃会社で働き出したものの…しばらくして父は突然失踪してしまいました〉
この失踪は3ヵ月後に吉沢が家に戻ってきたことで、なにごともなく無事に終わったそうだが、まさか、『ど根性ガエル』の作者が、一時期失踪していたとは……。同じようにスランプの果てに失踪した例として、プレッシャーに耐えかねて仕事を放擲し、自殺未遂の果てに路上生活に逃げ込んだ過去を描いた、吾妻ひでお『失踪日記』(イースト・プレス)が漫画ファンの間ではよく知られているが、それとほぼ同じことを吉沢やすみも行なっていたのである。
現在の吉沢やすみの日課は、孫と一緒にスケッチブックを持って公園に行き一緒に絵を描くことだというが、ギャンブルとアルコールに溺れるどん底の状況にいた彼を救ったのはなんだったのか?
08年3月、ウェブ版「日刊ゲンダイ」に掲載されたインタビューで、吉沢自ら奇跡のような復活劇について語っている。
〈『ひとつ屋根の下』ってフジテレビのドラマで、主役の江口洋介さんがピョン吉の絵の入ったTシャツを着てくれたんです。おかげでまた『ど根性ガエル』が注目され、長男を大学に入れることができました〉
再注目された『ど根性ガエル』は、その後、ソルマック(大鵬薬品)のテレビCM・パチンコ台のキャラクター・ユニクロのTシャツのロゴなどに起用され、キャラクター版権により時を越えてジリ貧の吉沢に救いの手を差し伸べてくれた。