『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(筒井淳也/中央公論社)
埼玉県所沢市が今年度から採用した「育休退園」の制度が、大きな注目を集めている。これは、保育園に0〜2歳児を通わせている母親が第二子を出産して育児休業を取得した場合、園児を原則退園させるというものだ。待機児童問題解消のために講じた策で、母親が社会復帰する際には第一子、第二子ともに同じ保育園に入所できるように優遇するとしているが、待機児童の抜本的な解決になっていないと指摘する声も多い。
さらには「保育園に入りたい入りたいって子どもが思っているかというと、きっとそうじゃない。子どもはお母さんと一緒にいたい。特に小さいころはきっとそうだろう」という藤本正人所沢市長の発言が母親たちの神経を逆なでしている。
市長の発言のように、出生率の低下や待機児童問題などの子どもに関する社会問題が巻き起こった際には、度々「男が外で働き、女性が家で子どもを育てるべきだ」という意見が吹き出す。では、旧来の「男性だけが稼ぎ手」社会の復活こそが、子育ての諸問題や未婚率の上昇を解決するかといえば、そうではない。
そもそも働くかどうかを女性個人が決められない社会はおかしいというのが大前提だが、バブル崩壊後から現在まで尾をひいている不景気が「男性だけが稼ぎ手」の社会を難しくしている。1980年代から2010年の雇用形態の推移を見ると、男女ともに正規雇用は減少し、非正規雇用が増加している。景気が上向きとは言われているが、正規雇用では企業の体力が持たないのだ。さらに、少子高齢化社会で不安視されているのが労働力の不足だ。
こういった社会で結婚し、子育てをしていくには、共働きが一番有効で現実的な選択だといえよう。しかしながら、現在の日本は子どもを持つ共働き夫婦に、実用的な制度は少ない。なぜ他の国では子育て制度の充実が着々と進むのに、日本では共働きが厳しいのか。『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(筒井淳也/中央公論社)では、データを多用し考察している。
日本とは時代は重ならなかったものの、長らく不況にあえいでいたヨーロッパ諸国と北米。しかし、方針こそ違えど、アメリカとスウェーデンは、女性の労働参加率が高いまま、出生率の低下に歯止めがかかっている。