どういう状況がそれを可能にしているのだろうか。まずはスウェーデン。高負担・高福祉で知られるスウェーデンは、女性の働き方にも大きな特徴がある。それは「所得を得ている女性の実に五割以上が公的に雇用されている」ということ。育休や育児給付金などの充実した制度が、女性たちの出産を後押ししていることは想像に難くない。
スウェーデンとは180度異なる、低負担・低福祉のアメリカでは民間企業が主体となって自宅勤務など柔軟な働き方を推し進め、出産後の復職を短くするなど、男女ともに働きやすい環境が広がっているという。
一方で、「男性が稼ぐ」社会を維持し、女性の雇用を広げなかったドイツでは、出生率が伸び悩んでいる。
ここで浮き彫りになるのは、日本では政府も民間も女性の労働参加ための策を講じてこなかったという姿勢だ。そのため、女性が共働きをポジティブに捉える風潮は弱く、安定した所得を持つ男性が見つかるまで、結婚を延期して両親と同居する人が多かった。著書はそれこそが晩婚化の要因ではないかと推測している。
現在では日本でも共働き夫婦がスタンダードになり始めているが、本書では「共働き戦略が有効であるには、女性がそれなりの高い賃金で長く仕事を続けられる、あるいは労働市場が柔軟で、女性が出産を機に一度仕事を辞めても、ある程度条件のよい仕事に復帰できる、という見込みがなければならない」と指摘。
では具体的にどんな支援が望ましいかというと、大きく分けて両立支援と家族支援が挙げられる。両立支援とは、保育サービスや育児休業制度の充実、そして女性が働きやすい労働環境への転換など。これまでは女性の出産前後と乳幼児期を想定した制度が多かったが、「仕事を続けたい女性にとっての最大の困難は育児休業が終わったあとにやってくる」。長時間労働や「小1の壁」など、問題は山積みだからだ。
もうひとつの家族支援とは、児童手当や教育費補助を指す。就労していない配偶者への扶養手当も家族支援に含まれるのだが、著者は扶養手当は「就労に対してディスインセンティブになる」ため、家族支援は子どもに対する支援を優先すべきと結論づけている。
日本の制度はいまだその場限りの対応で、点と線がつながらない状態だ。長期的な施策が求められているのに、所沢市長の発言を見ると現実離れした古びた思想の蔓延こそが、制度充実の鈍足の原因になっていることがつくづく感じられるだろう。
(江崎理生)
最終更新:2018.10.18 03:10