指原がブレイクにいたる快進撃は、09年9月25日に『週刊AKB』(テレビ東京)で放送された「第1回肝っ玉クイーン選手権」において、バンジージャンプを飛ぶことができず、「へたれ」というキャラがついたことにはじまる。
指原莉乃『逆転力~ピンチを待て~』(講談社)では、この時バンジーを飛べなかったことについて、「やばいなと思いましたね。これはまずいぞと。ただでさえ当時、総選挙で選抜に入れず弱くなっていた自分の立場が、これで相当危うくなったな」と語っている。
結果として、今までは「少しMCがうまい」程度の立ち位置であった彼女に、この放送で「へたれ」という強力なキャラがついた。アイドルにつけられるキャラクターとして「へたれ」は決してほめ言葉ではないように思うが、指原は前述の本でこう語る。
「秋元さんに、「指原のへたれなところ、弱いところを応援してるファンが多いんだぞ」と言われて、「あ、そうだったんだ。ラッキー!」と。へたれに関しては、周りが言うなら自分はそうなんだ、と思って乗っかっていっただけなんです
(中略)
でも、この時のバンジー拒否というピンチから、へたれキャラというチャンスが生まれたことは間違いありません。このキャラが付いて、広まっていったおかげで、自分を取り巻く状況がどんどん変わっていきました」
「へたれ」というキャラを積極的に受け止め、自分の弱点を押し出していくことに意識的だったことが、ここでは語られている。
実際、この後、彼女は自らの弱みを次々と表に出すようになる。中学生の時にイジメを受け、不登校になった過去。そんな自分を支えてくれたのは、モーニング娘。をはじめとしたアイドルであり、その時期に自分の好きなアイドルを話題にして2ちゃんねるに書き込んだり、ブログを立ち上げたりといったことが今の自分をつくっているということ。そういった暗い過去の告白が、さらに彼女のファンを増やしていった。
アイドルを応援する動機は二つある。一つは「付き合いたいと思う、疑似恋愛の気持ち」、そして、もう一つは「この子を『支えたい』と思う気持ち」である。
そして、「この子を『支えたい』」と思わせるためには、少し弱いところを見せた方がいい。
歌もダンスも演技もお喋りも、すべてが完璧なアイドルよりも、ちょっとヌケているぐらいの子の方が愛される。その「弱みを見せる」ことを意識的に行い、成功していった先輩のケースを見て、若いアイドルたちがこぞって、「病み」の告白をはじめた。小嶋はそういう状況にいらだっているのかもしれない
しかし、これもアイドルたちの「病み」のひとつの側面でしかなく、一方ではほんとうに精神を病んでいるアイドルも少なくない。本物の病みか、ブランディングなのか。
まあ、いずれにしても、彼女たちを使って金儲けをしている大人たちが彼女たちをその状況に追い込んでいることだけは間違いないが……。
(新田樹)
最終更新:2015.06.10 06:15