このように書くと、まるで井ノ原は女性の太鼓持ちをしているだけのようにも思えるかもしれないが、さにあらず。ときには反発を買うような発言だって、井ノ原は厭わず行う。
12年8月、「戦争ってなに?」と題し、子どもに戦争をどのように伝えるべきかを特集したとき、ちょうど世の中では「子どもに戦争の悲惨さを教えるために残酷な映像や写真を見せるのはいかがなものか」「トラウマにはならないか」という声があがっていた。番組でもそうした流れから、長崎市原爆資料館を訪れた子どもの反応を紹介。ある少年はショックを隠しきれない様子だった。
しかし、井ノ原はそのショックを受けた少年について「これはとっても大事なこと」と述べ、こうつづけた。
「人を殺すということは、たいへんなことで、バーチャルじゃないんだというショックは、多少のトラウマになってもいいぐらいじゃないですかね」
場の空気に抗おうとすると、ときとして人は一匹狼のように孤立しがちだ。でも、井ノ原の静かな“抵抗”には、刺々しさやざらつきが感じられない。『あさイチ』は「女性の貧困」や「母が重たい」、先月5月に放送した「沖縄」特集といった社会的なテーマも積極的に扱うが、こうした重い特集を視聴者が朝から受け止めることができる一因には、井ノ原の“雰囲気はゆるいけど、真摯”というキャラクターの魅力によるところも大きいのではないだろうか。
いまではいつも笑顔で“気さくなお兄ちゃん”ふうの井ノ原ではあるものの、事務所に入所したばかりのころはジャニー喜多川にも「そんな暗かったら誰も話したくないよ」と怒られてばかりだったと言う。「小学校では認められたんだ」とジャニーさんに見せつけたくて、自分のスローガンが載った学級新聞を持っていったこともある。しかし、ジャニーさんの反応は「ちょっと待って、僕、世界のジャニーだよ!」「わら半紙なんか持ってこないでよ」と「マジで怒られた」。でも、そのころのことを、井ノ原はこのように語る。
「もちろん社長をはじめ、子ども相手に理不尽なことを言う大人にもたくさん出会ったけど、それで逆に鍛えられる部分もあったし」
芸能界という“理不尽”の世界を歩み、さらには結婚生活もオープンに語るというジャニーズ事務所では特異なポジションを得て、身につけた柔軟さと強さ。──先日、本サイトでは同事務所の先輩・中居正広が戦略的に「こじらせ中年」を演じることで芸能界を生き延びようとしていると指摘したが、まさに“生活者”として歳をとることが仕事に結び付いている井ノ原は中居とは対照的。意外と60歳を過ぎても番組MCを張っているのは、イノッチのほうかもしれない。
(大方 草)
最終更新:2015.06.09 07:17