しかし、モンスター社員を巡る事件は、一方的に彼らが悪で、会社が被害者という単純な図式には収まらない。最初はふつうの社員だった者を、会社がモンスター化させてしまうケースも多いのだという。
例えば仕事ができるから、と多少のルール違反に目をつぶり、対応すべきところで対応していない場合に社員のモラルは低下する。前述の「ママ社員」の場合がその典型。直属の上司はこの社員の行動を問題視し、逐一注意してきたが、肝心の社長は技術畑出身で、労務管理は大の苦手。問題行動が表面化しても、「確かに問題なんだけど、何とかうまくやってくれないかな?」「彼女は10年以上も勤めてくれているし、何とか機嫌を損ねないように穏便にさ」と彼女の直属の上司に「丸投げ」する始末。両者と対面した著者も言う。
「問題社員の言動を大目に見て、その後上手くいったなどという話はほとんど聞いた事がない。大抵のケースが『最初からきちんと注意しておけば……』という結果になる」
あるスーパーマーケットでは新入社員がベテランのパート従業員にいじめられて、辞めてしまう問題があった。大学を出たばかりの女性新人が幹部候補生として現場に派遣される。パート従業員は新入社員が自分たちより仕事ができないのに給与が高いことをいやみったらしく本人に聞こえるように何度も言い、結局耐えられずに新人は会社を辞める。このことだけを見るとパート従業員が「モンスター」のように見える。しかし、これも経営サイドに原因の一つがある。
それはやはり、パートと社員の待遇格差だ。パートの待遇を改善し、不満を取り除き、理解を得ていれば「モンスター化」は防げたかもしれないのだ。
経営者が社員を見下していることに原因があるケースもある。とある60代の経営者は、従業員のレベルが低く、仕事はいい加減でモラルは低い、特に問題な社員がいて、反抗的で何かというと弁護士に相談するといっては脅す、という。だが、この社長は著者にこんな相談をしていたという
「自分は大手企業に勤めていたので、周囲の人間もレベルが高かった。中小企業で働くような人間は、元々人間としてのレベルが低い」
「中小企業の従業員なんていうものは、自分で考えることをしないバカなんだから、こっちが怒ったり持ち上げたりして上手く操っていくしかない」
「会社は経営が大変な中で賞与もちゃんと支払っているんだから、普通は会社に感謝するのが当たり前だ。経営者である私1人が仕事をしているようなものだ」
《このような発言を繰り返すこの経営者を見ていて、問題はこの経営者にあるということがよく分かった。この経営者自身が、自己中心的で、プライドが高く、相手を見下しているのだ。まさに、従業員は、この経営者を鏡としているのだろう》