思えば、憲法の施行から60年の節目だった2007年、憲法記念日直近の4月29日にNHKは『日本国憲法 誕生』と題したドキュメンタリーを放送した。この番組では、それまで極秘とされてきた憲法成立の裏側を、当時の資料や、GHQや極東委員会関係者による証言、政府案の起草を作成した内閣法制局・佐藤達夫の録音テープなどから検証。結果として、衆議院内に設置された「帝国憲法改正案委員小委員会」によって条文の修正が行われていたこと、9条にしても積極的に戦争の放棄を明文化したのは日本の議員によるものだったことを明らかにした。いわば、「GHQの押し付け憲法」という論を吹き飛ばす内容だったのだ。
このドキュメンタリーが放送された際も、第一次安倍内閣による改憲の動きがすでに見られていた。それゆえ、NHKの製作陣は憲法を見直すこと、成り立ちを振り返ることを重要視した。だが、それからわずか8年。当時の心意気はいまのNHKにはない。
ただ、問題は多くのテレビ番組から護憲の声がかき消されていることではない。それ以上に、憲法について取り上げること自体が「タブー」化していることだ。
たしかに、憲法記念日におけるテレビ各局の報道を見ていると「改憲の足を引っ張る内容や、護憲派の主張を取り上げれば、政権から槍玉に挙げられるから怖くてやれない」と感じて萎縮しているようにも思える。それなら話はわかりやすい。だが、いまテレビの報道を覆っている状況は、それでさえない。ストレートニュースですら憲法記念日の動きを紹介しなかったフジテレビの姿勢が顕著であるように、護憲か改憲かではなく、「憲法問題に触れる」ことがすでに禁忌になりつつあるのだ。
この「触らぬ神に祟りなし」という境地にまでテレビ報道を追い込んだのは、もちろん、選挙報道に因縁をつけ、政権批判をコメンテーターが口にしただけで“出頭要請”をかけ、放送法をちらつかせて脅しをかけるという、安倍政権が睨みをきかせてきた結果だ。しかし、この状況では、改憲に対する安倍政権の強引な政治手法を批判すること以前に、憲法についてのまともな議論さえ報道されなくなってしまう。
安倍首相のゴルフ休暇を呑気に報じる一方、憲法問題には触れないニュース番組。すっかり安倍政権に去勢されてしまったテレビは、一体どこに向かうつもりなのだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2015.05.06 07:34