『潜入ルポ 東京タクシー運転手』(文春新書)
アベノミクスで景気が上向きになっていると言われても、果たしてどれくらいの人々が実感しているのだろうか? 景気動向に左右されやすいといわれるタクシー業界にスポットを当ててみると、なんともひどい現状が見えてくる。
ノンフィクション作家の矢貫隆氏が実際にタクシー運転手となって取材し、執筆した『潜入ルポ 東京タクシー運転手』(文春新書)には、東京のタクシー業界の裏側が暴かれている。
アベノミクスの効果といわれ、日経平均株価が約5年半ぶりに15000円台に回復した2013年5月。矢貫氏は、タクシー運転手として最後の1カ月を送った。ここで矢貫氏は1カ月の水揚げ(売り上げ)50万円という目標を立てる。取材最後の1カ月ということで、
「アベノミクスという言葉を日常的に耳にするようになっていたのも追い風になると信じ、そんな強い意気込みでスタートした」
とのことだが、その結果は惨憺たるものだった。水揚げの総額は40万3230円で、この金額だと50%が運転手の取り分となる。結果、給料の総額は19万4010円で、手取りにして15万8156円しかなかったというのだ。
タクシー運転手は多くの客を乗せれば、それだけ収入も増える。もちろん中には多く稼いでいる運転手もいるだろう。しかし、誰もが簡単に稼げるわけもなく、手取り15万円程度で苦しい思いをしている運転手も多いのだ。アベノミクスの恩恵など、ほとんどのタクシー運転手は実感していないのである。
タクシー運転手の厳しさは安い給料だけではない。さらに、「運転手負担金」なるものが運転手にのしかかってくる。2013年のある月の矢貫氏の給料明細にはこんな記載があったという。
「Gカラー控除、3450円」「無線控除、1050円」「クレジット、3110円」
これらが「運転手負担金」というもので、それらが給料から引かれるのだ。