前述の小栗の発言にもあるように、日本の芸能界は、バーニング・プロダクションをはじめとして「事務所の力」がものをいう世界である。事務所の力が強ければ、大して人気がなくともテレビドラマにキャスティングされるし、スキャンダルも圧力で握りつぶすこともできる。逆に、弱小の事務所であれば、マスコミは“気兼ねなく”スキャンダルを書き立てることができる。タレントは、その魅力や実力でのし上がるしかないシステムだ。大手とはいえない事務所で地道に活動し、身から出たサビとはいえスキャンダルを報じられ放題だった小栗にとっては、この理不尽な状況に悔しさもあるのかもしれない。
しかし、小栗は何もスキャンダル報道の不公平感のことだけを問題にしているわけではないはずだ。というのも、小栗ほどの人気があれば、大手に移籍することなど充分に可能だからだ。さらに、ミス・インターナショナル世界大会で日本人初の優勝に輝いた吉松育美氏が大手芸能事務所の幹部からストーカー被害と脅迫を受けたことを訴えたような事例も起こってしまうのが、日本の芸能界である。実際にその世界に身を置く小栗にしてみれば“殺されかねない”と自覚するほど、事務所の枠をこえて俳優が主体となる労組をつくることなど、大手芸能事務所は許さないのだろう。
それでも、小栗はまだ意欲を失っていない。鈴木によれば、「今この人ね、借金までして稽古場を建てているんですよ」と言う。
「「俳優が自分たちを向上させていけるような場を作りたい」って言って、口だけじゃなく、実際に作ってるんですよ。自分だけでなく、役者みんなで向上していこうよというこのストイックさは、この若さではいままで誰も実行してこなかったと思いますし、ちょっとやっぱりおかしいですよね(笑)」(鈴木)
この稽古場をつくる理由を、小栗はこう話す。
「アメリカなんかは、メジャー作品にこの前まで無名だった俳優が、ある日突然主役に抜擢されることがあるのに、日本ではそういうことはほとんどないという現状がある。それを起こすためには、大前提としてスキルを持っていないとできないので、その力をみんなでつける場所を作りたいということですね」
自分たちの若い世代の俳優が、旧態依然とした芸能界を変えたい。──“合コンの持ち帰り王”としての軟派な顔だけでなく、じつは熱い思いをもった小栗旬。小栗のこの果敢な挑戦が潰されることがないよう、応援したいものだ。
(水井多賀子)
最終更新:2014.09.23 08:42