『ちびまる子ちゃん』13巻(集英社)
マンガの世界には、雑誌には掲載されたものの、単行本に収録されることのなかった、いわゆる「封印作品」というものが存在する。ネットやコンビニ本などでも、差別表現や現実の事件トラブル、事実誤認、読者からのクレームなどでお蔵入りになったマンガがよく紹介されている。
ところが、そんななか、意外な封印作品の存在が明らかになった。その作品とは、さくらももこによるほのぼの日常系マンガ『ちびまる子ちゃん』(集英社)。「ええ! あの国民的マンガに封印作品なんてありえないでしょ!」とびっくりした方も多いだろう。だが、『消されたマンガ』(赤田祐一、ばるぼら/鉄人社)によると、「りぼん」(集英社)1995年2月号に掲載された「ちびまる子ちゃん」第98話が、単行本に収録されることなく、葬り去られているらしいのだ。
といっても、花輪君が貧乏人に差別発言をして問題になったとか、友蔵の扱いのひどさに「老人虐待だ!」とクレームが殺到したとか、そういうことではない。作品が封印された理由は、同書によると、内容が「あまりにサイケ」だったから。
どういうことか。さっそく国会図書館で当時の「りぼん」を閲覧して問題の第98話を読んでみた。
「まる子、夢について考える」と題されたこの回。お話はいきなり洞窟の中、怪しいお面をつけた邪教徒の集団が「神よ力を与えよ」と叫び踊っているシーンから始まる。その様子をソッと覗いていたまる子だったが、彼らに見つかってしまい、とらわれの身に。すると、そこに王子様が登場。まる子を助けて、邪教徒たちをやっつける。邪教徒がお面をはずすと、なぜか藤木に永沢君。と、まあここまでは夢の話としてはありうる展開だ。
ところが、ここからがすごい。かたわらに小杉の死体が転がっていて、ハエがたかっている。同級生の死体にハエがたかっているのに、まる子は王子様からプロポースを受け、舞い上がる。と、なぜか平安時代の十二単の格好をした野口さんが登場。でも、野口さんが「ここは平安時代ではない」というので御簾のすきまから外をのぞくと、そこはアメリカのブロードウェイ。ブロードウェイで劇を見ていると、登場した女の子が子ども時代のまる子の母親。気がつくとまる子はおばあちゃんの家にいて、子ども時代の母親に「起きなさい」としかられる──。