『労働鎖国 ニッポンの崩壊』(ダイヤモンド社)
安倍政権による“なし崩し政策”は、なにも「集団的自衛権」の拡大解釈にとどまらない。最近、声高に言い出している「外国人労働者の受け入れ拡大論」も、国民不在の産物にすぎないようだ。
安倍晋三首相が、何の前触れもなく、外国人労働者の受け入れを切り出したのは、ことし4月。経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議の席上だった。
「女性の活躍推進や経済成長の観点から、外国人材の活用の仕組みを検討してもらいたい」
こう耳障りのいいお題目を述べるや否や、いきなり、介護や家事の分野に外国人労働者を受け入れるよう各方面に指示したのだ。政府関係者があきれ顔で言う。
「産業競争力会議のメンバーになっている“ウルトラ規制緩和派”の竹中平蔵たちが安倍さんに進言しているようだが、これが実に安直でね。過酷すぎて日本人すら定着しない介護現場や、密室性の高い家庭内の家事労働にいきなり外国人を導入するなんて、ノー天気すぎるよ」
実際、介護現場の危うさを伝える報道も出始めている。大阪府と奈良県で介護施設を運営する「寿寿」という民間会社では、約30人のフィリピン人女性たちを採用する際、「わたしが死亡しても会社の責任は問わない」という、まるで過労死を容認するかのような誓約書を女性たちに書かせていたことが明るみに出た。東京新聞などによると、女性たちは月に13回も介護施設に泊まり込み、深夜にはひとりで20人以上も介護を任される。何をどうしたらいいか分からず、パニックに陥ることもあるらしい。介護の訓練や日本語の研修をまともに受けていないからだ。
こうした危うさも付きまとう外国人受け入れ論が今回一気に吹き出したのは、いったい、なぜか。それは、日本が人口減少社会に突入し、高齢者を日本人の若手だけでは担い切れなくなっているという避けがたい現実があるからだろう。
『労働鎖国 ニッポンの崩壊』(ダイヤモンド社)は、経済発展を遂げた国々が必ず通る人口減少問題を、各国の移民受け入れ事情を探りながら丁寧に議論した1冊。移民問題といえば、「低賃金で働く外国人が国内労働者の仕事を奪ってしまう」という問題を抱え、極右による排外主義の動きも起きている「欧米の専売特許」と受け止めがちだが、実際はそうではない。