あまり知られていないが、隣国の台湾では、「移民を受け入れたら民族性が脅かされる」という議論を国会でさんざんした揚げ句、開放政策に転じて、いまや20万人のフィリピン人女性たちが介護現場で働く時代になっている。
韓国でも、10年前に移民開放政策を打ち出し、建設現場で働く外国人の姿を数多く見かけるようになった。各国とも、高齢化に悩んだ末の決断だった。
肝心なのは、いずれの国も、外国人を受け入れるにあたり、「移民局」のような専門の政府機関を設けていること。放っておけば、自国民との摩擦が必ず起きる。そうしたリスクを引き受け、外国人をケアしようという政策は、当たり前のように施されていることを本書は教えてくれる。
翻って、日本はどうか。外国人労働者の受け入れを頑として認めなかった法務省の有識者会議が、安倍首相のひと言にすっかり怯えてしまい、外国人労働者の唯一の受け皿になっている技能実習制度を、あらゆる職種に広げるよう提言を6月にまとめてしまった。
これは、法務省による入管難民法の“拡大解釈”だったが、集団的自衛権の閣議決定問題に隠れて、注意深く報じる大手メディアはなかった。
「技能実習制度というのは、外国に日本の技術を伝えることが本来の目的。ところが、政府は『疑似移民制度』として悪用している。働いてほしいけれど、“居ついて子どもとか家族とかをつくってもらっては困る”という“純血主義”を守りたいからだね。数年間限りのビザを出して期限がきたらサッサと帰ってもらうという、実にご都合主義な制度なんだよ」(移民問題に詳しい大学准教授)
技能実習制度なるものを悪用し、いまだに、外国人労働者をフォローする政府機関の設置から目を背ける安倍政権。実は、この技能実習制度、米国務省が「人身売買制度」と批判を続けていることを知る人は少ないのではないか。日本の大手メディアが報道を避け、国民が戦前さながらの情報過疎状態に置かれているからにほかならない。
「安倍政権には第2、第3の“従軍慰安婦問題”が付きまとっている」という海外の目線を忘れるべきではないだろう。
(小和田三郎)
最終更新:2014.09.16 08:04