ドラマ『HERO』公式サイト(フジテレビ)より
木村拓哉主演のドラマ『HERO』(フジテレビ系)が意外にも好調だ。ここ数年、主演ドラマがコケ続け、オワコンと揶揄されたキムタクだが、7月14日に放送された初回の視聴率は26.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。NHKの『花子とアン』が7月5日に記録した25.9%を抜き、今年のドラマでは最高視聴率となった。その後も20%前後をキープし、視聴率低迷にあえいでいるフジテレビにとっては救いの神的な存在になっている。
だが、視聴者は、このドラマがもっとキナ臭い役割を果たしていることを知っているのだろうか。実はこの『HERO』、文部科学省とタイアップをして道徳教育のキャンペーンに利用されているのだ。「道徳教育×HERO」と題されたこのプロジェクトは、キムタク演じる久利生検事の「社会正義」や「本気で生きる」という理念を教育の場に持ち込み、子どもたちの道徳教育を促進しようというもの。ドラマ制作発表の席にはキムタクの横で、下村博文文科相が満面の笑みで座り、「素晴らしい作品」などと持ち上げた。
もともと安倍政権が押し進める道徳教育には批判があったが、この異例の取り合わせに、リベラル派から「権力を監視すべきメディアが国家の思想教育に加担するのはおかしい」という批判が噴出し、保守派からも「フジテレビの薄っぺらいドラマに教育の一端を担わせていいのか」という疑問があがっている。
さらに、このプロジェクトでもうひとつ問題なのは、キムタクが演じる「検事」という設定だ。検事という職業、検察という組織はこの10年、「不正」「腐敗」をさんざん取りざたされてきた。そんな組織と官僚を道徳の教材にして、ほんとうにいいのか。
そもそも検察官は人を起訴して刑事裁判にかける権限、「公訴権」をほぼ独占的に行使する官僚。警察や国税などがいくら事件を捜査しても、検察官が起訴してくれなければ刑罰を科すことができない。また、検察官は独自捜査することも可能で、東京地検や大阪地検の特捜部が過去に数々の政治家を摘発してきた。しかも日本では検察が起訴した際の有罪率は99%を超える。つまり、政治家や警察、国税も検察には頭が上がらず、裁判所までが検察のいいなりという、文字どおり「最強の権力機関」といっていい。
しかし、検察はこの権力を利用して、その時々の政権や官僚組織にとって邪魔な政治家や官僚、メディアを狙い撃ちして、事件をでっち上げてきた。元共同通信記者で、検察に詳しいジャーナリストの青木理が書いた『増補版 国策捜査 暴走する特捜検察と餌食にされた人たち』(角川文庫)には、恣意的に罪に問われた13人の政治家や弁護士、記者などが証言しているのだが、それを読むと検察のとんでもない実態が浮かび上がってくる。
その代表的な1人が2002年に東京地検特捜部に偽計業務妨害などの容疑で逮捕、起訴された当時の自民党衆院議員・鈴木宗男だ。この本では、検察がいかに事件を作り上げ、世論を誘導し、そして世の中にとって“ヒーロー”となっていくのか。そのことが赤裸々に鈴木の口から語られている。
「私の事件をめぐっては、まず当時の世論状況があった。検察や外務省のリークによってつくり上げられたものです。(中略)そうした世論の中で、検察は自分たちのつくったシナリオ、ストーリーに合わせて調書をつくっていった。(中略)国策捜査をやろうと思えば、どんな人でもしょっぴけるんです」