「生活困窮者自立支援金」引き上げも、借金をするのが前提の厳しい要件では無意味
さらに絶句したのが、岸田政権が19日に公表予定の「生活支援策」だ。朝日新聞の報道によるとその中身とは、コロナの影響を受けて減収した困窮世帯に「生活困窮者自立支援金」を最大計60万円再支給する、というシロモノだというのだ。
言っておくが、菅政権が創設した「生活困窮者自立支援金」は、コロナの影響で減収した人向けに最大200万円を無利子で貸す「特例貸し付け」を上限まで借りた人が対象であり、さらにはハローワークへの求職を申し込んでいないと対象にならない。ようするに200万円もの借金を背負い、挙げ句、求職していないと対象にならないという厳しい要件をクリアしないといけないのだ。
政府は要件緩和も検討するというが、この期に及んで借金が前提の愚策を菅政権から継承しようとは、岸田首相はもはや鬼畜と呼ぶべきだし、高市氏が口にしていた「お困りの方に経済的支援をする」という選挙公約はまったく守られていない。
しかし、自民の看板倒れ、棄民政策はこれだけではない。
岸田首相は総裁選のときから、格差是正のための「分配」戦略の柱として看護師や保育士、介護士らの給与引き上げを前面に掲げてきた。だが、打ち出されたその引き上げ額は、看護師で月額1万2000円、保育士・介護士はわずか月額9000円だった。
しかも、岸田首相はこの給与引き上げを、来年、2~9月分は交付金や補助金といった形で行うが、10月分以降は全面的な公費投入ではなく「公的価格の見直し」によって行おうとしている。
「公的価格」というのは、看護、介護、保育の分野で、サービスの価格、つまり診療報酬や介護報酬などの金額を政府が決める制度。引き上げられれば、当然、医療の窓口負担や介護利用料が値上げになる。
岸田首相や政府は「見直し」という言葉を使っているが、介護と看護の来年10月分以降は、価格を引き上げる「報酬改定」を行うことが既定路線となっている。
実際、9日に行われた「全世代型社会保障構築会議」「公的価格評価検討委員会」合同会議の初会合後の会見では、内閣官房の担当者が賃上げによって「当然、(医療や介護、保育といったサービスの)価格設定には影響してくると考えている」と発言した。
ようは、看護師や保育士、介護士らの賃上げを口実にして、国民の医療や介護負担を増大させようとしているのだ。
しかも絶句すべきは、この「全世代型社会保障構築会議」では、「負担能力のある高齢者には支え手に回ってもらう発想も必要」だの「コロナ禍の教訓を踏まえ、地域医療構想の推進など医療改革が必要」だの、高齢者負担増や消費税を財源とした病床削減政策の推進を後押しする意見が飛び出していたことだ。
選挙公約で打ち出した困窮者支援はスカスカな上、格差是正のための公費投入をケチって格差拡大を招こうとしたり、「第6波」が懸念される最中に病床削減政策を推進させようとする──。本サイトでは以前から岸田政権について「安倍・菅政権の延長にすぎない」と指摘してきたが、今回、打ち出した政策によって、岸田首相自身に「棄民」という自民党の基本姿勢が染み付いていることがこれであらわになったと言うべきだろう。
(編集部)
最終更新:2021.11.13 08:16