「金融所得課税」を引っ込めた理由を訊かれたときも、支離滅裂な言い訳をダラダラ
だが、岸田首相の話がもっと意味不明だったのは、総裁選では掲げておきながら公約から消えてしまった「金融所得課税の見直し」についての言い訳だ。
『news23』では、コメンテーターの星浩が「富裕層増税、金融資産への増税、どうやら腰くだけ、先送りという印象なんですけども」と問うと、岸田首相は「政策の順番として、まずはみなさんの賃金を引き上げる優遇税制、ここから始めるべきであると。その先に、金融所得税制を考えるべきである」と発言。これを受けて星氏は「そうするとその金融所得課税は、どのぐらいのスパンで、いずれ見直していくという考え方なんですか?」と重ねて質問したのだが、岸田首相はまたも、長々とこう語り始めた。
「あのですね、いま、この、えー、アフターコロナ、コロナ後の経済ということを考えた場合に、私は、成長と分配の好循環ということを申し上げていますが、この成長と分配の好循環のなかで、まずはその、国とそして民間、協力するかたちで、しっかり分配を考えていかなきゃいけない。その際に、みなさんの所得をできるだけ幅広く引き上げることが大事だということをずーっと言い続けてきました。ですから、そこからまず始めて、格差の問題や、この分断の話に対してしっかり向き合う。そしてその先に、金融所得課税というのは、この富裕層の税率が低いということが問題になってるという課題ですので、まずは所得を全体引き上げた上で、この税制についても考えるということですから、これはこの、何年かのこの幅広いスパンのなかで、物事を考えていく。この経済の復活の、このタイミング、あるいはこれからのこのスケジュール感のなかで考えていくわけですので、いつまでと、限って言うんではなくして、先ほど言った順番を間違えないように進めていくことが私たちは大事だと思っています」
これまた、先ほどの出産・育児の問題と同じでやたら話が長いだけで、具体性が何もない。一度聞いただけでは何を言おうとしているのかさっぱりわからない。読者のみなさんもこれを一読しただけでは、何も頭に残らないだろう。
しかし、この金融所得課税見送りに関するダラダラした言い訳をあらためて冷静に検証すると、岸田首相の話がなぜ、こんなに長くてつまらないかがわかってくる。都合の悪いことを、聞く気の起きないダラダラ話法でごまかしているのだ。
実際、その長さに騙されて誰もツッコまなかったが、岸田首相がこのとき語った論理は、以前、語っていたことと完全に矛盾していた。
岸田首相は、総裁選に向けておこなった9月8日の政策発表の記者会見では「中間層の拡大に向けて分配機能を強化し、そして所得を引き上げる」と発言。「成長の果実の分配や国民の一体感を取り戻すという点において(金融所得課税を)ひとつ考え直す、見つめ直す必要があるのではないか。(金融所得課税の見直しは)さまざまな分配の手法のひとつとして挙げさせていただいた」と語っていた。ようするに、分配によって所得を引き上げるための手法のひとつとして金融所得課税の強化を持ち出していた。
ところが、この『news23』では、「所得を全体引き上げた上で税制についても考える」などと言っていたのだ。これって、9月8日の政策会見のときに言っていたのとは順序が完全に逆。しかも、金融所得課税見直しの具体的なタイミングについては「この経済の復活の、このタイミング、あるいはこれからのこのスケジュール感のなかで考えていくわけですので、いつまでと、限って言うんではなくして」などと、空疎な言葉を重ねて、具体的なことを最後まで口にしなかった。
ようするに、岸田首相は、自民党や経済界に圧力をかけられて金融所得課税見直しを引っ込めただけで、それを正当化する理由なんて何もなかった。それで、こんなわけのわからない、中身のない言い訳をダラダラと語ってごまかしたのである。