ファイザー社の五輪選手団へのワクチン提供を“手柄話”のように語った菅首相の棄民思想
いや、それどころか、菅首相は「ワクチン接種の加速化を実行すること、そして、それまでの間に感染拡大を何としても食い止めること、この『2つの作戦』に私自身、先頭に立って取り組んでまいります」などと宣言したのだが、「感染防止」のほうの対策について言及したのは、まさかの「マスク、手洗い、3密の回避の徹底」だけ。すでに政府分科会の尾身茂会長やコロナ担当の西村康稔・経済再生担当相も「3密ではなく1密でも感染する」と述べているのに、肝心の対策トップに立つ菅首相は「3密の回避」などと言っているのである。
こんな体たらくでよくもまあ「2つの作戦」などとぶち上げたものだが、しかし、昨日の会見で絶句したのは、もちろん、東京五輪開催の是非についての発言だ。
菅首相はまず、会見冒頭の発言で「ファイザー社との協議においては、東京大会に参加する各国の選手団に対し、ワクチンを無償で供与したいという申し出がありました」などと自身の手柄であるかのように語り、「安全・安心の大会に大きく貢献する」と得意げに述べた。
だが、この話を勝ち誇ったように語ること自体、「棄民」の姿勢が溢れたものだ。五輪選手団にワクチン接種を優先させることに対しては、世界保健機関(WHO)の緊急対応責任者であるマイク・ライアン氏が「われわれは今直面している現実を直視しなければならない。今、最も危険にさらされている人々に接種するワクチンさえ十分にない」「最前線の医療従事者、高齢者、社会で最も脆弱な人々が最初にワクチンにアクセスする必要がある」と言及、東京大医科学研究所の石井健教授も「ワクチンは公衆衛生のために使うべきであって、スポーツイベントのためではない」と指摘(毎日新聞ウェブ版6日付)。だいたい、この国においては医療従事者へのワクチン接種すらいまだに完了しておらず、選手にワクチンを打つ医療従事者がワクチンを打てていないという公衆衛生の観点をまるで無視した状況が生まれる可能性があるのだ。
いや、そもそも東京五輪の強行開催に反対論が高まっているのは、大阪をはじめとして医療従事者不足などから医療崩壊が起こっているというのに約1万人もの医師や看護師を大会運営のために駆り出そうという「国民の命よりスポーツイベントを優先させる」姿勢にある。
なのに、菅首相はそうした国民の疑問や不条理には答えず、「安全・安心の大会」としか口にしない。ようするに、「安全・安心の大会」を可能とすることだけが開催の条件だと考えているのである。
しかし、その「安全・安心の大会」というのも、裏付けなき「2つの作戦」と同様、まったく根拠がない。いや、それどころか、信じられないような計画まで進められているのだ。