神保哲生は安倍首相に「個別のメディア1本釣り」「出来レース会見」の問題を追及
厳しい質問を投げかけない御用メディアの取材ばかりに応じ、記者会見では事前に質問を集めて用意された答えを読み上げるだけ──。実際、安倍政権によるメディア選別や報道圧力によって報道の自由はどんどんなくなり、「茶番」「出来レース」会見化は深刻なまでに進んだ。だが、こんな状況となったのは、政権側の増長を許したメディアや官邸記者クラブ側にも責任がある。
だが、今回はこのような質問が総理会見でおこなわれ、NHKをはじめとして生放送の電波に乗ったこと自体、ちょっとした“事件”だったと言ってもいいだろう。
この質問に対し、安倍首相は「幹事社から質問を受けるというのが安倍政権の特徴ではなくて、ずっと前の政権もおそらく同じだった」などと幹事社による代表質問の話にすり替え、メディア選別の問題も「メディアにそれぞれどう出演するかというのは、それぞれの政権が判断するのだろう」とやはりごまかしただけだったが、本来、こうした質問を首相に突きつけ、その回答に対してさらに記者が追加質問(更問い)を重ねてゆくというかたちができていれば、首相はごまかしきれなくなり、その回答のいい加減さ、あるいは問題点がくっきりと浮かび上がったことだろう。そして、それこそが「記者会見」と呼ばれるものなのだ。
ところがどうだ。官邸が健康不安説を流しつづけた上で2度目の「政権放り投げ」が繰り広げられたというのに、その問題を追及する質問がまったく出てこないどころか、コロナ下での臨時国会開催拒否、河井夫妻やIR汚職事件の議員逮捕問題についても質問はゼロ、批判的な視点からの質問はごくごくわずかという体たらく。つまり、安倍政権によるメディア支配の悪影響は、最後の最後になっても消え去ることはなかったのだ。
そしてこれは、安倍首相が辞任して終わる問題ではない。安倍首相が築いたメディアとの関係は、総裁選びでよほどの番狂わせがないかぎり、次の首相・政権も踏襲することはまず間違いないからだ。とくに、次期総裁・首相の有力候補者のひとりである菅義偉官房長官は、メディアへの恫喝・圧力と懐柔によって安倍政権下でマスコミをコントロールしてきた張本人であり、さらに強化される可能性すらある。
安倍政権ほどの問題政権が歴代最長となった大きな要因のひとつは、不正が発覚しても社会問題化させてこなかったメディアによるアシストの力が大きい。だが、安倍首相が辞任しようとも、そのことに対する反省は、メディア側にはほとんどないらしい。最後になってもまともな質問ができなかったメディアは、恥を知るべきだ。
(編集部)
最終更新:2020.08.29 09:49