吉村知事「市大の附属病院の従事者に投与する」発言に「人権侵害」の批判
まず、6月16日に、松井市長が「6月30日、まず市大病院で医療従事者にワクチンを接種してもらうことが、ほぼ決まってきております」と発言。
さらに、吉村知事はこれを受けて、翌17日の定例会見で、あたかも正式発表のように意気揚々とこう語った。
「日本産、そして大阪産の新型コロナのワクチンの開発をこの間、進めてまいりましたが、6月30日、今月末に人への投与、治験を実施いたします。これは全国で初になると思います」
「現実に動物実験で安全性も確認をいたしましたので、今月末に市大の医学部附属病院の医療従事者に、まずは20例から30例の投与をする予定です。そして10月にはその安全性を確認した上ですけれども、10月にはこれを数百名程度の規模に拡大していきます。対象者を拡大します。そして、今年中には10万から20万の単位での製造というのが可能になります」
「新型コロナとの闘いは、治療薬とワクチンが非常に重要になってきます。全国初の第一歩を大阪で踏み出すことができた。なんとかこれを量産して、実用化して、府民の皆さん、国民の皆さんの命を守れるものに実現したい」
このセリフだけを聞くと、まるで吉村知事や松井市長が主導してワクチン開発を始めたかのような錯覚を覚えるが、ワクチン開発は3月5日、大阪大学の森下竜一教授と森下教授が創業したバイオベンチャーのアンジェス、製造を担うタカラバイオが立ち上げ、すでに発表していた。
ところが、4月14日になって、いきなり、吉村知事と松井市長が会見を開き、「オール大阪でワクチン開発を進める」「年内には10万から20万単位でワクチン投与させる」とぶちあげたのだ。
「森下教授は、『大阪府・市統合本部医療戦略会議』参与や『2025年万博基本構想検討会議』委員になるなど、維新とも関係が深い。その森下教授から国産のDNAワクチン計画を聞かされて、これは人気取りに利用できると乗っかった。森下教授の側も大阪大学ではなかなか治験の許可が下りないという問題を抱えており、吉村知事・松井市長が影響力のある大阪市立大学で治験を進めようという狙いがあった」(大手紙在阪デスク)
まさに手柄横取りの典型だが、もっと問題なのは人への治験開始を具体的に発表した6月17日の会見だった。
この会見をめぐっては、吉村知事が「市大の医学部附属病院の医療従事者に投与する」と発言したことについて、医療従事者から「医療従事者を人体実験に使うつもりか」「病院の職員に検査を強制する人権侵害ではないか」といった反発の声が上がり、吉村知事が「それだったら、僕を最初に治験者にしてもらっていい」などと反論する経緯もあった。
のちにアンジェスも大阪市立大学も「治験対象者は医療従事者に限らない」「あくまで募集して手を挙げた人が対象になる」と打ち消したが、吉村知事は明らかに医療従事者への投与を断言していた。行政の長が治験をおこなう予定の公立病院スタッフへの投与を宣言すれば、強制的な意味を持ってしまうのは避けられない。人権侵害、パワハラと言われても仕方がないだろう。