説明会に出席した朝日幹部6人中4人が「吉田調書や慰安婦報道より池上彰のコラム不掲載が問題」
渡辺周は前編集担当役員の杉浦に「なぜ池上コラム不掲載が吉田調書より問題だと思ったのか」と尋ねた。杉浦はこう言った。
「朝日新聞の最も大事なリベラルさ、多様な意見を載せるということを大きく傷つけたことが、私の中では最も大きな問題だと思っています」
渡辺は再度聞いた。
「当時の編集の責任者がそう思っているのに、なぜ記者会見が吉田調書で行われたのか」
すると杉浦は一言。「そこはわかりません」
渡辺は出席した他の幹部全員にも質問した。
「杉浦さんは、池上コラムの不掲載が一番問題だと言った。出席している他の方も、慰安婦報道の検証、池上コラムの不掲載、吉田調書の三つのうちどれが一番問題か、理由とともに言ってください」
飯田(販売担当役員):「営業サイドの立場で申し上げると、慰安婦報道の検証ではそれほど部数が落ちなかった。一気に落ちたのは広告不掲載も含めて池上コラム問題、続いて吉田調書」「部数の問題でいうと、池上さんのことで傲慢さが出てきたということで、部数が落ち始めた」「吉田調書は取り消しがあった。当初は表現の問題なのかなと思っていた。しかし世間が見たのは、朝日新聞が取り消したこと。それは社長会見も含めてそうだ」
西村(編集担当役員):「私は池上コラム見合わせの影響が圧倒的に大きいと思っている。朝日新聞は幅広い異論を積極的に取り入れて、紙面で展開することが強みだっただけに、その信用を傷つけたという非常に大きな問題だったと思う。私から言えるのは以上」
福地(社長室長):「少なくとも吉田調書については、あれだけの展開をした記事を取り消したので、それをもって職を解くというのはやむを得なかったと思っている」
市川(ゼネラルマネジャー):「(杉浦)編担が解任された直接の理由は吉田調書。しかし池上問題がかなり大きいと思う」
渡辺(ゼネラルエディター):「現時点で軽重はつけられない」
出席した幹部6人のうち4人が、「一連の三つの問題」のうち、池上コラム不掲載をあげた。そこには新旧の編集部門の最高責任者も含まれている。
なぜ「一番問題」と思っている池上コラム不掲載はおとがめなしにして、吉田調書報道だけで処分を決めたのか。誰が処分を決めたのか。なぜ、幹部たちが「池上コラム不掲載が一番問題」と思いながら、吉田調書報道が矢面に立ったのか──。
この疑問は、それから3年半たった、2018年に木村伊量社長自身によって明らかになる。
(後編に続く)
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最終更新:2020.03.11 07:50