プライバシーを盾に「桜を見る会」招待者公表を拒否しながら、演説で一般人の実名
こんなありえないことが起きてしまうのが、安倍政権の怖さなのだ。実際、安倍首相には、スピーチや国会答弁で虚偽・フェイクまがいの話を喧伝してきた“前科”がある。
たとえば、安倍首相が9条に自衛隊明記する改憲の理由としてしきりに持ち出していた、「自衛官が息子に『お父さんは違憲なの?』と目に涙を浮かべながら言われた」というエピソードがそうだ。安倍首相はことあるごとにこのエピソードを取り上げ、「自衛隊の幹部から聞いた」「ある自衛官から聞いた」と語ってきた。
しかし、国会で小中学校と自衛隊駐屯地のそばで育ったという立憲民主党の本多平直衆院議員が「こんな話が出たことがない」と質疑のなかで述べると、安倍首相は血相を変えて「私が嘘を言うわけないじゃないですか!」と喚き立て、「資料を出せと言うんであれば出させていただく」と大見得を切った。
ところが、その後の衆院予算委員会で、安倍首相は出すと言っていた資料も出さず、「防衛省担当の総理秘書官を通じて、航空自衛隊の幹部自衛官から伺った話」と答弁。つまり、「自衛隊の幹部から聞いた」「ある自衛官から聞いた」と語ってきたのに、実際には又聞きだったことがわかったのだ。
しかも、本サイトが調べたところ、「お父さん違憲なの?」のネタ元だと思われる元自衛官の話が「正論」(産経新聞社)に掲載された2017年6月と同時期に、同じような話が極右界隈で語られはじめていた。ちなみに安倍首相が9条に自衛隊を明記する改憲案をぶちあげたのは同年5月。ようするに、改憲案を正当化するために、改憲勢力や自衛隊出身の右派論客などが古いエピソードを持ち出した疑いがあるのだ(過去記事参照)。
雑誌などで語られていたような話を「自分が直接聞いた話」だと嘘をついて国会答弁やスピーチで平気で繰り返し、改憲の道具に使う──。大前提として、「お前の父ちゃん憲法違反!」などといじめられた子どもがほんとうにいるのだとしたら、おこなうべきはいじめの解消・解決。そのエピソードを持ち出して改憲の理由にすること自体がどうかしているのだが、ともかく、これが安倍首相の常套手段なのだ。しかも、そのやり口はスピーチライターを含む側近たちに完全に広がり、官邸全体の方法論と化している。
こうした状況を踏まえると、今回の施政方針演説の問題もさもありなんと言わざるを得ないが、今回の演説でもうひとつ指摘しておきたいのは、安倍首相の「個人情報」の考え方だ。
安倍首相は「桜を見る会」問題では、招待者について「個人に関する情報」だと言い張ってすべての回答を拒否している。それは自ら招待されたことを宣伝材料にしていたジャパンライフ会長の件についても同じで、当人が招待されたとあきらかにしているにもかかわらず、安倍首相はやはり「個人に関する情報なので回答は差し控える」の一点張りだ。
事ほどさように「個人情報」の保護遵守を言い募るのに、一方では国会の演説でカジュアルに一般人の実名を挙げて、結果このような騒ぎを巻き起こす……。結局、安倍首相の言う「個人情報」に対する認識とはこの程度のもので、都合が悪いときの隠れ蓑でしかないのだ。
威勢のいい言葉や美辞麗句を並べ立て、中身が空っぽだっただけではなく、地方創生の成功例として語った話が実際にはフェイクまがいだったというこの疑惑。安倍首相に説明が求められることは言うまでもない。
(編集部)
最終更新:2020.01.21 05:34